小野貴史(おのたかし)氏は、昭和46年4月生れの27歳。東京学芸大学教育学部総合社会システム科の卒業生であるが、作曲を吉崎清富氏に師事している。楽器店に勤務しつつ、積極的に作品発表会を企画しているという。
応募作品「光とともに西へこそ行け―ヴィオラ・ソロパートを伴うオーケストラのための―Go toward the West with a gleam for Orchestra(accompanied with Viola solo part)で、<作曲の意図>は以下の通り。
「戦国武将の荒木村重の正室、多子(だし)が、信長に処刑される際に詠んだ辞世の歌
みがくべき心の月の曇らねば
光とともに西へこそ行け
からタイトルはとられている。
この曲において、オーケストラは多子をとりまく運命/現実であり、ヴィオラはそれに抗う人間を表現している。ヴィオラ(人間)は、自分をとりまく現実(オーケストラ)に次第に呑み込まれて行き、やがてはそれ(現実)を受け容れる。
この作品に対する委員の評価は、回を重ねるごとに低くなって行ったことが心配であった。
委員の一人は、この作品の構造や書法に分裂が見られるため、書き直すとよいとのサジェスチョンを述べている。もう1曲の候補作品と、最後に鎬を削ったが、演奏が容易という点で選ばれたものである。しかし、実際の響きはどうであろうか。<標題音楽>という意味でない、本当の意味での<プログラム・ミュージック>で、聴き手の魂を震え戦(おのの)かせてくれることを心から願っている。
第21回作曲賞作品募集要領
オーケストラ作品を下記の要領で募集しています。
1]資格 日本国籍を有すること。
2]申込手続 所定の申込用紙に該当事項を記入し、作品に申込料20,000円を添えて申し込む。
(申込用紙は80円切手を同封の上、財団に請求のこと)
3]申込期限 平成10年9月30曰(水)午後3時
4]表彰 入選作品は「現代日本のオーケストラ音楽」演奏会にて初演する。
5]その他 (1)未発表作品に限る。(2)オーケストラは3管の通常編成以内とし、打楽器奏者は5人までとする。その他の制限は特に設けない。(3)演奏時間は25分程度以内。