榎薗 正人(えのきぞの まさと)(昭27.5.17生・鹿児島県鹿児島市)
自らが車椅子を使用する重度障害の身ながら、多年にわたり地道な点訳活動を通して視覚障害者の日常生活の向上や社会参加の促進に尽力し、障害者福祉の向上に貢献された。
1] 自らも重度の障害を持ちながら、人の世話になるだけでなく、社会のために何か役立つことがあればと、多年にわたり病室から日夜点訳奉仕活動に励み、視覚障害者の福祉の向上に貢献している。昭和46年、22歳のとき登山中の事故により脊髄を損傷したため首から下に重度の障害が残り、寝たきりの生活が7年間続いたが、自分よりも若く重い障害をもった人たちが前向きに明るく生きている姿を見て、自分も人生を納得して生きたいと勇気づけられ、懸命なリハビリにより両腕が動かせ車椅子に乗れるようになり、字が書けるまでに回復した。
新聞の投稿欄で、読みたい翻訳本がないという岩手県の視覚障害者の投稿を読んで、鹿児島県点字図書館に手紙を出したことがきっかけとなり、県点字図書館から県内で初めての点字指導員として活動されている方を紹介され、点訳のテキスト、点訳問題集を送ってもらい通信教育をはじめて4ヶ月間で問題集を終え、本格的な点訳活動を始めた。当時は、点字板と点筆を使っての点訳でありうまく点筆が持てないためリハビリの先生に相談し、点筆を右手にしっかりとつけられるような補助具を制作してもらうなど、創意工夫によって困難を乗り越え点訳活動を続けて、周囲の人々の協力を得た最初の点訳本「白夜紀行」全1巻が、同61年7月に完成した。
2] 昭和62年3月には、鹿児島県点字図書館点訳奉仕員として正式に登録され、以後精力的に点訳活動に取り組み、平成4年にはパソコン点訳に移行し、点訳作業の効率も向上し手打ちの何倍もの速さで作業が進み、点訳の範囲もあらゆるジャンルに広がった。特に東洋医学関係の専門書や情報処理に関する専門書など、利用者のニーズに応えた点訳活動を続け、同10年3月までに182タイトル、754冊におよぶ実績を残し視覚障害者への情報提供、福祉向上に貢献している。
「1000冊点訳すれば1000冊の人生、1100冊点訳すれば1100冊の人生。自分を納得させるためにもニーズに応えられる点訳を続けていけたら。」と、抱負と意欲を新たにして点訳活動に取り組んでいる。
(鹿児島県推薦)