新田 正雄(にった まさお)(大6.10.5生・秋田県由利郡鳥海町)
秋田県鳥海町に伝わる無形民俗文化財の獅子舞番楽の師匠として、多年にわたり後継者の指導育成と番楽の次代への伝承に努めるなど、地域伝統芸能の保存と振興に貢献された。
1] 生家は下直根番楽(しもひたねばんがく)の代表者である別当を代々継承しており、幼少から笛や太鼓の音に親しみ、昭和8年16歳の時から本格的な手ほどきを受け、舞、拍子等の伎芸を習得した。持ち前の器用さと人一倍の研究熱心により、単衣、袴、冠物などすべての番楽衣装を仕立てたほか、面を打ち笛の製作にも携わり、舞手として定評があった。同23年からは村役場に勤める傍ら、夜毎練習に励み、笛と拍子方を担当して次代への伝承の中心的な役割を担った。
2] 昭和36年直根神社の氏子総代となり自らは囃子方として、また番楽師匠として地道に後進の指導にあたるとともに、他の地域の保存団体に対しても適切な助言をするなど、鳥海町に伝承される13の獅子舞番楽(本海番楽)の継承と振興に大きく貢献した。
氏の番楽師匠としての後継者育成が功を奏して、同40年代以降の下直根番楽は活発な活動を展開し、町内はもとより県内外でも数多くの芸能大会やイベントに出演して高い評価を得た。
3] 平成元年、鳥海町ではふるさと創生事業として獅子舞番楽の伝承に取り組むこととなったことから、計画策定に積極的に関わって、小中学生による本海流獅子舞の創作では伝統的な舞の部分を指導するとともに、最も重要な獅子頭を自ら手がけて八頭を完成させた。
この本海流獅子舞は、同2年7月国立オリンピック記念青少年総合センター主催の全国民俗芸能指導者講座の少年少女による民俗芸能実演部門で披露された。
4] 平成5年、鳥海山麓に伝承されている獅子舞番楽講中の交流と後継者育成を目的に、午後6時から翌朝まで10時間に及ぶ夜明かし番楽を開催したが各保存団体間の連絡調整を積極的に図り実現させた。この催しを契機として同6年7月、町内の伝承団体の交流と結束のため本海流獅子舞伝承者懇話会設立の推進役となって参画し、現在も副会長として充実発展に尽くしている。
* 本海番楽(江戸時代前期・寛永年間に、京都醍醐の修験者・本海行人が伝えた芸能)
(秋田県教育委員会推薦)