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木下 衛(きのした まもる)(昭26.2.13生・長崎県長崎市)

平成9年9月6日深夜長崎市内で、橋から誤って浦上川に転落した男性が、台風の影響で増水した濁流に流されているのを河口に面した自宅で発見するや、激しい風雨の中を大学生の息子とともに救助に向かい、溺れかけていた男性に川岸からロープ付救命浮環を投げて引き寄せ、無事救助された。

平成9年9月6日、長崎地方には台風19号の影響を受けた100mmを越す大雨が降り、勢力は若干衰えつつあったが台風が通過する地域では被害が予想される状況であった。氏は、長崎市内を流れる浦上川の河口付近に面した同市旭町で飲食店を営んでいるが、同日は早めに店を閉め、台風に備えて自宅の周りを見回ってから家へ入った。テレビの台風情報は大雨洪水警報を伝えていた。

9月7日午前0時過ぎ氏が寝床に入ろうとしたとき、川に面した窓の外から悲鳴と「ドブン」いう水音が聞こえたような気がしたため、激しい風雨であったが窓を開けて戸外に目を凝らした。川面に浮き沈みしながら流れる黒い物体を認めたため、人が誤って橋から転落したのではないかと考え大声で呼びかけた。すると川中からかすかに反応があったので、すぐさま家族に救難所長に救助を依頼するよう指示し、息子を伴い川岸へ急いだ。

二人は流されて行く遭難者を川岸に沿って追いかけた。途中で氏は近くに稲佐救難所の倉庫があることを思い出し、息子に遭難者を見失わないよう指示をして倉庫からロープ付の救命浮き輪を抱えて川岸に戻った。遭難者は濁流に呑まれ水没寸前の状態であったが、川岸から10m付近まで流されてきたところで、氏が力いっぱい川面に向けて浮き輪を投げた。遭難者の目の前に浮き輪が落ちたのでしっかりしがみつくように指示し、氏は息子と二人で協力して注意深くゆっくりと引き寄せ、無事に遭難者を引き上げ救助に成功した。救助された男性は疲労困憊して1人では歩けない状態であったので、救急車を手配するとともに、再び救難所の倉庫へ行って備え付けてあった担架を持って戻り、息子と協力して男性を担架に乗せて救難所に運び込み濁水を吐かせるなどの応急処置を施した。氏の素早い状況判断と適切な処置が男性の命を救った。

((社)日本水難救済会推薦)

 

 

 

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