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「定期借家権」Q&A

定期借家権は、良質な家族用貸家の供給を促進し、借家人層の選択を広げる。

みんなが得する、「百利あって一害なし」の制度だ。

 

阿部泰隆(あべ・やすたか) 神戸大学法学部教授

 

現行の借地借家法では、いったん貸してしまうと、期限付きで貸しても、各種の事情を考慮して正当の事由がなければ、借主の希望で賃貸借契約は永久に更新される(28条)。借主はいったん借りたら、安心してそこに居住し、または営業をすることができる。しかし、貸すほうからすれば、うっかり貸せば、自分で使いたくても、もっと有利な借主が現れても、建て替えようとしても、なかなか取り戻せない。そこで、貸し渋りがおきる。個人の住宅では空家でも貸し出さないのが普通である。事業者でも、入れ替りの激しい単身者、若夫婦用の貸家しか提供しない。その結果、子どものいる普通の家族用の貸家はほとんど供給されなくなった。

この現状を打破して、家族用の貸家の供給を促進しようとするのが定期借家権である。これは、約束の期限が来たら、借主には更新請求権がなく、再契約するかどうかを両当事者の任意の契約に任せる。家主は、期限が来れば、自分で使うかもっと有利な借主を探すか、建て替えて資産をもっと有利に運用するかの選択をすることができる。家主はこのような自由を享受できるのであれば、貸家経営をしようというインセンティブが働く。

これに対しては、現行制度を墨守する法律家から多数の批判が試みられた。しかし、いずれも失敗である。彼らは法や経済の基本を理解せずに、情緒的に、借家人が不利になると反対していたが、最近はほぼ沈黙している。

 

本当は逆に、善良な借家人には得になる制度で、みんなが得し、「百利あって一害なし」というべきだ。

以下では、疑問に答える形で、定期借家権に関するいくつかの論点を紹介しよう。

 

Q1 期限が来ても、現行制度であれば、借家人はそのまま賃貸借契約の更新を求めることができるのに、定期借家では、家主に再契約を拒否されたら出なければならない。これでは多数のホームレスが出るのではないか。

 

A:家主は、借家人を追い出して空家にしておくわけではなく、別の借家人を入れるか、建て替えて別の者に貸すのが普通である。入居できる借家人は増えることはあっても減ることはなく、借家人が多数ホームレスになるわけではない。

 

 

 

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