定期借家権の制度化により、借家市場は大きく拡大し、豊かな居住や経済の活性化がもたらされる。
また、法解釈至上主義の瓦解をもたらす第一歩になりうると同時に法の裁量に派生する不正や不公平をも回避できる。
借地借家法は借家人をムチ打つという皮肉を生んでいる
借地借家法の最大の弊害は、潜在的借手を過酷な地位に押しやったということである。供給がためらわれるならば、結局のところ広い借家を適正な家賃で借りようとする借手に対して選択肢の不存在、高額な賃料を強いる結果をもたらす。借地借家法は、保護しようとしたまさにその借家人を、ムチ打つという皮肉を生んでいるのである。
建設省調べによれば、借家に占める40m2未満の物件の比率は、ドイツ3.1%、フランス0.6%、アメリカ0.0%に対して、日本では48.4%と、借家に限って著しい小規模化が進展している。日本の持家の平均面積は122m2と、すでにドイツ、フランス、イギリスよりも広い規模を実現している。このような落差の主要国を借地借家法の存在以外に求めることができるという分析は存在しない。
借家に占める40m2未満の物件の比率は、ドイツ3.1%、フランス0.6%、アメリカ0.0%に対して日本では48.4%。
しかも、借家法が保証する膨大な借家権価格のために、すでに借家権価格が発生してしまった借家人が、借家権価格を獲得するという歪んだ動機に基づきそこに居住し続けることを有利にしている。そのような借家人が社会的に弱者であるという相関はない。反面、どのように弱者であろうとも、自らの事情で転居することになった借家人には何らの居住保護も与えられない。このような事情を無視して正当事由制度を弱者保護の観点から正当化する見解もあるが詭弁にすぎない。
定期借家権の制度化により借家市場は大きく拡大し、豊かな居住と経済の活性化がもたらされる
1998年6月、議員立法として自民・さきがけ・社民・自由の4党共同提案により借地借家法改正案が提出された。同案によれば、既存借家については正当事由制度の保護を継続することを前提として、新規契約については正当事由制度や継続賃料抑制主義の適用のない完全に自由な契約をも許すこととしており、60年近くも維持されてきた特異な法の呪縛からわれわれを解き放そうとしている。定期借家権の制度化により借家市場は大きく拡大し、豊かな居住や経済の活性化がもたらされるであろう。
何よりも重要なことは、不透明な要件・効果のまま放置され、法の解釈をめぐってさまざまな法律専門家集団がその解釈の不明確さを業務の維持・拡大の材料にしてきたという法解釈至上主義の瓦解をもたらす第一歩になりうるという点である。法の要件および効果が明確ならば紛争を事前に回避することができる。紛争をめぐって法律専門家集団が両当事者の側に立って、あれこれ指南するという社会的コストが発生することも回避できる。当事者が自己の行動の結果を確実に予測することができることとなれば、自己責任のもとに、市民や企業に対してさまざまな選択肢を提供することができる。法の裁量に派生する不正や不公平をも回避できる。
「正しい住宅政策のあり方は、大衆の住居の安定という任務を国家が私的家主に転嫁することではなく、国家予算による。……住宅難の解消」(鈴木禄弥『居住権論』有斐閣、5頁)を図ることにある。
1998年6月、議員立法として借地借家法改正案が提出(自民・さきがけ・社民・自由の4党共同提案)。
日本の特殊な立法過程、不透明な裁量を温存してきた法慣行を打破し、法を法律家でなく、市民や企業に奉仕する道具として再構築していくための象徴的な端緒ととて定期借家権立法を位置づけたい。