定期借家権の導入は景気対策に役立つのみならず、住宅弱者のための政策強化を可能にする。
同時に、「ミスマッチ持ち家」を解消して日本の住宅事情と都市構造を深く広く改善するだろう。
2:地方の住宅のセカンドハウス化が起こる
現在、地方では、人口の減少とともに空き家が増えつつある。この空き家をいったん他人に貸すと、戻ってこないため、貸家にできないからである。こうして地方にある多くの貴重な住宅ストックが荒廃しつつある。現在、3軒の家を抱えている一人っ子同士の夫婦が多いという。自分たちで都会に家を持ったが、夫の両親も妻の両親もそれぞれ亡くなり、田舎に2軒の家を持っているというわけである。売れば、税を取られるし、貸すのは怖くて貸せないから、ただ持っているというわけである。定期借家権を導入すると、このような地方の住宅が貸家として供給されることになる。これらは、都会の住民がセカンドハウスとして借りるようになろう。新しい住宅を作るよりははるかに安くつき、そのうえ、地方の生活環境に合った住宅に住めることになる。定期借家権は大都市の再生のためだけでなく、地方振興のためにも必要である。
[3軒の家を抱えている一人っ子同士の夫婦]
自分たちで都会に家を持ったが、夫と妻の両親がそれぞれ亡くなり、田舎に2軒の家を持っている。
定期借家権の導入は低所得者への家賃補助の財源をつくりだす
実は、定期借家権の導入は、弱者にいくつもの恩恵をもたらす。まず、広く安価な借家が豊富に流通することになるから、賃貸にかかわる多くの住宅弱者が救済されることとなる。零細な家主を含めてである。さらに、定期借家権の導入は、家賃補助という住宅弱者への新たな補助手段をも作り出す。家族向けの民間賃貸住宅が大量に供給されるようになると、家賃補助が住宅弱者救済のための手段として使えるようになるからである。
それだけではない、定期借家権の導入は、住宅弱者補助のための新たな財源までつくりだす。従来の日本の住宅補助政策の多くは、借地借家法による民間貸家供給の不足を補完する目的で生まれた。公団の賃貸住宅政策、公営住宅、特優賃等はその例である。そのため補助対象が中産階級に偏りすぎ、低所得者への住宅補助は貧弱であった。しかし、中産階級が定期借家に住めるようになれば、それ以上国が借家の供給促進をする理由はなくなる。このため、中産階級への住宅補助としての膨大な財政支出をやめることができる。これが、低所得者への家賃補助の財源をつくりだす。
従来の日本の住宅補助政策(公団の賃貸住宅政策、公営住宅、特優賃等)は、借地借家法による民間貸家供給の不足を補完する目的で生まれた。
定期借家権を導入するために住宅政策を強化する必要はない。しかしその導入は、このように住宅弱者のための政策強化を可能にしてくれる。借地借家法の正当事由条項は、戦時立法による現存規制のうちで最大のものである。定期借家権の導入は、景気対策に役立つのみならず、日本の住宅事情と都市構造を深く広く改善するであろう。特に、住宅弱者の救済に抜本的な役割を果たすであろう。