ているということです。ただ、そういう企業を見ますと、必ずしもその企業でモラルハザードが起きているとは言えない。業績が悪くなると、内部者による交代の確率が上がるとか、あるいは雇用の成長率が同業他社に比べて低くなると、内部者による交代の確率が高まるというような形で、交代がシステマティックに起きております。ですから、その意味では、メインバンクから自立した、メインバンクのモニターから自由になったから、即座にモラルハザードが起きたと見るのはどうも問題で、少なくとも製造業を見ている限り、日本の企業というのは、ガバナンス構造は分化したけれども、それなりに健全性は維持していて、業績が悪くなる、あるいは経営効率が低下したときに、経営者を交代できるようなメカニズムがワークしていると考えられるというのが、私の実証研究から出てきた結論ということになります。
これが最後のシートで、そんなにインプレッシブな結論を提示しているわけではないのですが、21世紀のコーポレート・ガバナンスを考えるという場合に、今日検討したところは製造業、言い換えますと非金融部門でした。非金融部門のガバナンスに対して、これまで金融部門が影響力を持っていたが、それが低下していく一方で、それに資本市場が代わって重要な役割を果たし始めたといったお話をしているわけですけれども、恐らくコーポレート・ガバナンスで今最も問題なのは、銀行部門自身のガバナンスです。ですから、80年代あるいは90年代の、80年代末にはやや甘い審査による貸出、90年代には追加融資を行った銀行部門の経営を有効に規律するメカニズムはなかったというのは、指摘されているところです。ここの銀行部門のガバナンスというのは大問題です。今日問題にできませんでしたが、これをどうするかというのは緊急な課題だと考えます。
さて、製造業あるいは非金融部門のガバナンスを考えると、モラルハザードが起きたのではないかという仮定のもとにいろいろと80年代後半から90年代をチェックしてきました。銀行は問題だと思いますけれども、製造業のガバナンス構造については、ことさら悲観する必要はないのではないかというのが、総括的結論です。ただ、重要なことは、日本企業のガバナンス構造が分化してきたということです。分化してきたというのは、一方は資本市場にシフトしている。メインバンクからもう自立している企業がある。こういう企業は、もはや資本市場に基盤を置いて行動している。資本市場に基盤を置くとどういうことが起きるかというと、一定のビジネスチャンスを持っている、しかし、現在業績が悪い、あるいは負債比率が芳しくない、従ってデフォルトリスクを必ずしも