それからもう一つの発想は、経営者の観点から見ると、銀行によってモニターされるというのはいやなこと、つまり不効用を生むと考える。これはそんなに無理な仮定ではない。そういうふうに考えると、無担保転換社債というのは、基本的にはオープンマーケットで発行されますから、もちろんデフォルトで陥ってしまえば清算されてしまいますけれども、モニターは置いていない。そういう意味では経営者が自由にやれるという意味では私的便益は大きい。他方、救済オプション付き負債というのは、危なくなったときは助けてもらえるというメリットはあるけれども、銀行のモニターがある。借入だと、決済口座を通じて至近の動きまでしっかり監視されて、投資プロジェクトをやっている最中までモニターされる。社債発行でも、少なくとも社債を発行する時点ではかなり厳しい審査があるということが予想されます。ですから、そういう意味では経営者の観点からすると、社債のほうが便益が大きくて、借入のほうが便益が小さい。相対的には、借入が一番経営者にとっては、他の事情が一定だとすれば、不効用が大きく、無担保債のほうが自由度がある。ただし、そのかわり社債を選択すると、救済オプションがない。逆に、モニタリングを受け入れれば、救済オプションが明確につく。このように整理できるだろうと思っています。それで、このファクターが、企業経営者が負債を選択する、つまり銀行借入か社債を選択するときの決定要因ではないかと想定します。
そこで、次にその上で少し手続きを踏まなければいけない。これが重要なのですが、これはお手元の後ろのほうにあると思います。我々はアカデミックという実証研究をやるわけですけれども、この実証研究でこれが最もペインフル(Painful)なパートなのです。先ほど分けましたように、負債選択の手段を分類します。一つのポイントは無担保転換社債です。もう一つは有担保転換社債あるいは銀行保証債。3番目が銀行借入ですが、1980年以降、社債発行に関する規制緩和が進展するのですけれども、これは非常に段階的なのです。最初の時点では、無担保転換社債の発行できたのはたった2社で、トヨタと松下だけなのです。これが徐々に緩和されていって、1985年の時点では大体175社、そして1990年の時点では上場2,000社ぐらいのうちの500社ぐらいが無担保転換社債を発行した。つまり、1990年の500社は、基本的には負債発行に関しては完全に自由なファイナンシャルオプションを持つ企業ということになる。それに対して、その対極には適債基準─適債基準というのは、資産の規模とか純資産額とか、あるいは収