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視します。この問題も重要なのですが、これはちょっと側に置いておいて、外部資金を全部負債で調達するというふうにします。さて、1980年になりますと、日本の企業は負債をいくつかの選択肢からどういう比率で選択するかというのが初めて問題となる。逆に言いますと、1970年代までは、規制があって社債が発行できないという環境がありましたから、外部負債を調達する場合にも、基本的には選択問題は発生しなかったのです。それが1980年代になると、負債選択が初めて問題となる。では選択はどう理解できるか。さて、通常は資本市場で調達するものをパブリックデット(Public debt)とよく言うのですが、公開情報に基づく負債の発行で、社債はみんなパブリックデットだと。それに対して、借り入れは一対一の関係ですから、プライベート・インフォメーションに基づく負債だということで、プライベート・デット。普通は、社債と借り入れというふうに分けるのです。それに対して、ここでの分け方は、先ほど言いましたように、メインバンク関係というのは、救済オプション付きの負債を提供する関係が既に日本にあったと考えますと、救済オプションがあるかないかで負債を分けたほうがいいというのが、この論文の基本的なアイデアなのです。

救済オプションなし負債というのは、基本的には無担保転換社債。それに対して救済オプション付き負債というのは、借り入れもそうなのですけれども、有担保社債とか、銀行保証債というのも、借り入れほどは強くないですけれども、救済オプションがついていると考えてください。銀行保証債はわかりやすいと思います。デフォルトしたら銀行が保証するという債権です。それから、有担保社債はちょっとわかりにくいかもしれませんが、日本は、社債を発行する際、受託行を決めなくてはいけなくて、この受託行は基本的にメインバンクがなることになっていて、しかも今まで─近年のヤオハンのケースは別らしいので─より正確には、少なくとも1990年代までは、社債発行企業がデフォルトを起こした場合に、受託行はその他の社債保有者の社債を一括買取することが慣行となっていた。ですから、自分が受託行になって、市場で消化された社債保有者にデフォルトのリスクが及んではいけない。自分のモニターが不足であったと判断して、基本的には全額買取を行っている。ですから、もしデフォルトを起こしてしまうと、メインバンクは非常に大きな損失をこうむる。逆に言うと、有担保社債を発行した場合も、メインバンクはデフォルトを起こさないように厳格にモニターする。そう考えると、これまでの区分というのは、日本の現実に即すとリアルではなくて、むしろこういうふうに分けたほうがいいのです。

 

 

 

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