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営者の規律に重要な役割を演じていた。言い換えますと、アメリカの資本市場に代わる役割をメインバンクが代替的に担っていた。ところが1980年代後半になりますと、企業の資金調達が多様化してきます。そうすると、メインバンクの役割は後退してくる。このときに経営の規律のメカニズムについてどういうことが起きたのかというのが、ここでの関心なのです。

以下、少し言葉の復習みたいなことですけれども、しばしばモラルハザード、特に今は銀行経営者のモラルハザードが新聞等で指摘されていますが、一般的にモラルハザードとはどういうことを経済学で意味するかということをちょっと復習しておきます。一つは、これはアセット・サブスティテューション(Asset Substitution)とよく言われるのですが、このときは経営者と債権者の関係でモラルハザードが問題となるわけです。この場合のモラルハザードというのは、最も端的な例は、あまりリアリスティックではないですけれども、よく教科書に出てくる例は、非常に少額の資本しか持っていない人間が、銀行経営者、銀行を説得して多額の資金を借りる。成功すれば利益は自分のもの、失敗すると、株主は有限責任ですから、損は銀行にかぶってもらう。これがアセット・サブスティテューションと言われる事態であります。それからもう一つは、エフォート・アバージョン(Effort Aversion)と言われるものですけれども、これがエンパイアビルディングと結びついているもので、こちらは経営者と債権者との関係ではなく、経営者と株主との間で発生する─経済学の言葉ではエージェンシープロブレムと言うのですが─問題です。最も典型的なのは、だれからも規律されていないから努力を怠るというケースがあるわけです。もう少しリアルな世界で考えますと、だれからも規律されていない、株主からも、あるいは債権者からも有効な規律を受けていないと、企業のお金を使って自分だけの王国を築こうとする行動をとる。卑近な例でいけば、会社の社長あるいは経営陣が不必要にラグジュアリーな施設をつくるとかというのは、エンパイアビルディングなどが典型的な例だと言われています。ただ、もう少し経済実態的に言えば、このエンパイアビルディングのなかで重要性が大きいのは、内部者にのみ利益を生んで、株主に利益を生まないような投資プロジェクトの選択です。例えば、ある投資プロジェクトがあります。この投資プロジェクトを行うと、企業規模が大きくなる。経営者にとってみれば、自分の会社のシェアが大きくなる、あるいは従業員の規模が大きくなる。経営者にとっては効用を生み出すわけですけれども、それが必ずしも株主にとっては収益

 

 

 

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