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ここで教訓的なのは、アメリカの会計基準の動きである。

かつてアメリカでも有価証券の会計は保守的な低価法が中心であった。しかし80年代前半に貯蓄貸付組合(S&L)の経営危機に直面し、政府は、原価法の適用を容認した。その結果、S&Lは含み益のある有価証券のみを売却し売却益を計上する一方、含み損を抱えた有価証券を塩漬けにし、実質的に債務超過状態にある経営実態を隠蔽した。これがS&Lの危機の表面化を遅らせた(=投入される公的資金の金額を増大させた)として、後に議会で厳しく糾弾された。

その結果、アメリカの財務会計基準は、91年以降有価証券の会計において(原則として)原価法を否定し、時価法の適用を求めた。

もし長銀が低価法を採用すれば、上記の資本勘定は次のようになる。

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2 分類債権の引当金の問題

 

さらに、含み損同様に大きな問題が残っている。それは、分類債権の引当金の問題である。

長銀のみならず、各行の分類債権ごとの引当率は開示されていない。長銀の第二分類2兆3800億円に対する引当金が、もし巷間言われるように1%程度しかないとし、それを東京三菱並みの5%まで引き上げるとすれば、それだけで1000億円近い自己資本が必要となる。

しかも、第二分類の引当率は5%でも不十分である。その劣化の経験値(3年間で16.7%)やアメリカの類似債権の引当率(15%)からみた適性引当率は15〜20%である。この適性引当率まで引当率を上げるとすれば、3300億円程度の自己資本が必要となる。

この場合、長銀の資本勘定は△5300億円となる。

これは、住友信託側にとって重大の問題のはずである。住友信託は公的資金5200億円の「持参金」つきどころではなく、5300億円の借金とともに長銀を引き取らなければならないということになる。敢えて述べるが、住友信託の経営者は、長銀との合併を拒否するべきである。合併したとすれば住友信託の財務状況は確実に悪化し、やがて他の銀行との合併に追い込まれる可能性が高い。また住友信託め株主は、その利益に反するこの合併の白紙撤回を求めるべきである。

 

 

 

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