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しかしこの二次的リスクは「ディスクロージャー」の問題と裏腹の関係にあるという点を忘れてはいけない。そしてこの二次的リスクの問題こそ、政府のリーダーシップによって解決可能な問題である。つまり、政府が強力なリーダーシップを発揮し、残された金融機関についてディスクロージャーを徹底させ、「デリバティブ取引を行なうに足る信用十分な銀行」を市場が見極められるようにすれば、優良銀行は「締め出し」にあうことはない。デリバティブ市場から締め出される銀行は、そもそもデリバティブ取引を行なう上で必要な資本力・リスク管理能力をそもそも有していない銀行である。さらに必要に応じて、首相や大蔵大臣がウォールストリートやシティに出向いて、優良銀行の安全性を積極的に「セールス」すればよい。

すなわち、政府に求められる姿勢は、デリバティブ取引の存在をもって長銀救済を正当化することではなく、破綻すべき銀行を破綻させるプロセスにおいてデリバティブ取引を含む金融取引が、秩序だって解消されるようなメカニズムを構築することである。

 

II 預金者の混乱(取り付け)

 

預金を全額保護している以上、原理的にいって、「金融システム全体へ危機が波及すること」はあり得ない。

 

この点を議論するにあたっては、いわゆる「トゥー・ビッグ・トゥー・フェイル」という原理について理解することからはじめるとわかりやすい。

今回の長銀問題に関連しても政府は「これほど大きな銀行を潰した例は海外でもない」(保岡氏)と述べ、この「大き過ぎて潰せない」という原理を盾にしている。

トゥー・ビッグ・トゥー・フェイルとは、そもそも法律的な原理として存在していたものではなく、1984年のコンチネンタル・イリノイ銀行が破綻の危機に瀕した際に、「保険対象以外の預金と、他の債権者を保護したこと」から、トゥー・ビッグ・トゥー・フェイルという「ロジック」が生まれた。

議会などでは、「保険対象以外の預金を保護すること」をトゥー・ビッグ・トゥー・フェイルと呼んでいた。

その後、1991年の預金保険公社改革法(FDICIA)により預金保険公社が保険対象以外の預金と他の一般債務を保護することは、次の反省に立ち「禁止」された。

1] トゥー・ビッグ・トゥー・フェイル原則は、問題銀行におけるモラルハザード(倫理観の欠如)、預金者のモラルハザードの双方を著しく助長した

2] 他の債権者を保護したことは、金融システムの安定化と何らつながりを持たなかった

ただし、例外的に、そうしなければ金融システム全体の危機を招くと判断した場合は例外とした。

 

 

 

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