理由:すでに、内外の大手金融機関は長銀をはじめ、信用不安が囁かれている他の複数の日本の銀行とは、デリバティブ取引の残高を極小化している。また内外の大手金融機関は、残された残高について相互に担保を徴求しあい破綻時の取引解消に備えている。
但し、デリバティブに関しては次の問題が残る。
● 大手金融機関以外の長銀の取引先企業に対するリスクの連鎖
● デリバティブ取引解消に伴う市場リスク、および二次的なリスク
前者については後述する。ここでは、(専門的になるが)後者について言及しておく。デリバティブ取引の主要商品であるスワップ取引を行なう場合、契約の当事者同士はISDA(International Swap Dealers Association)が定めた標準約款を取り交わしている。この約款には1988年バージョンと1992年バージョンとがあり、契約相手の資本関係に変更があった場合(原文未確認)、88年バージョンでは「自動解約=Automatic Termination」、92年バージョンでは「選択権付き解約=Optional Termination」することとされている。実務家の間では、日本の銀行が取り交わしている約款は88年バージョンが中心で、92年バージョンは少ないという指摘がある。
そうなると、破綻(金融管理人の派遣を含む)の場合のみならず、民主党案のように「国有化」した場合でも、スワップ契約が一斉に「自動解約」される可能性がある。その場合次の影響が生じる。
1] 第一に、直接的な影響として、スワップの解消が一時に市場に集中する結果、スワップマーケット(のプライシング、あるいは需給)が混乱し、徴求済みの担保額を上回る損失が生じる可能性がある。
しかし、これは長銀のデリバティブ残高が少ないので(想定元本は50兆円であっても、実際のリスク総額は数千億円程度であり、個別金融機関では、数億〜数十億円程度?)、「計り知れない」混乱というほどのものではない。
2] 第二に、スワップの一斉解消という「混乱を伴う煩雑なプロセス」を経験した外国金融機関が、今後、長銀以外の他の経営不振を囁かれている銀行に対し、スワップ取引の解消を求めていく可能性がある。もし宮沢蔵相の「日本の金融機関全体が国際市場から締め出される可能性がある」との発言が、この二次的リスクを想定しているものであれば、その発言には妥当性がある。