これはちょっと専門的な話になりますが、ISDAの約款には1988年のバージョンと1992年のバージョンがあって、本来ですと92年のバージョンに更新していなければならないのですけれども、残念ながらISDAの約款をきちんと取り交わすということ自体が日本の金融機関ではこれまで割と軽視されていて、特にスワップ取引などを80年代から始めていた大手の都銀などは88年バージョンをずっと使っていて、92年バージョンに更新していないケースが非常に多いのです。それで、88年バージョンと92年バージョンでは非常に大きい違いがあって、88年バージョンでは契約相手の資本関係に変更があった場合、デフォルトの場合はもちろんそうなのですけれども、そういった場合にオートマティック・ターミネーションといって、自動解約というよりもむしろ強制解約に近い形で、取引を解消しなければいけないという約款の構成になっています。ところが、92年バージョンですとオプショナル・ターミネーションですから、解約をしなくてもいいわけです。それで、例えば国有化とか公的管理のところがどう解釈されるかが非常に問題で、これが資本関係が変わったとか、万が一デフォルトという解釈をされてしまうと、88年バージョンでは解約をしなければいけない。それが現実の姿で、このリスクが一つあります。
その場合に、それで解約が行われると何が起きるかといろと、それ自体は別に問題ではないのですが、例えば長銀規模の銀行がISDAの88年バージョンに基づいて、スワップ取引を中心とするデリバティブ取引が一斉に解約が起きた場合に何が起きるかというと、一つはデリバティブ市場自体の混乱が生じます。これはどういったことかというと、その場合、スワップ取引の当事者はお互いに、既に双方の信用リスクを精査した上で、担保を取り合っています。その担保というのは、いわゆるリプレースメントコストといいまして、そのスワップ取引の相手方がデフォルトを起こした場合に、同じスワップ取引をデリバティブ市場において他のカウンターパーティーとやるときにいくらかかるかというのを計算して、その損失をあらかじめ担保する意味で現金とか国債とか、そういった非常に流動性が高い担保を徴求し合っていますから、それで理論上はそこで生じる損失というのはカバーされるのです。しかし、一斉に取引の解消が集中した場合には、市場自体が非常に乱高下しますから、その担保だけで足りないといった可能性があって、担保を取ったから大丈夫というわけには必ずしもいかない。そういったことが起こります。