それ以外にも、人を雇い入れるとき。従業員にとってみれば、法人のほうがキャリアアップにつながるのです。たとえば、福祉団体などで看護婦さんを雇おうとする。看護婦さんにしてみれば法人勤務であれば、次の病院に移ったときにキャリアとして認めてもらえますが、任意団体ではそうはいきません。
一方で、法人化のデメリットも考慮しなければなりません。まず地方税です。毎年7万円ぐらいのコストがかかります。また、従業員を雇えば社会保険や雇用保険などの費用も負担しなければなりません。それに情報の公開があります。毎年1回、情報を公開するための手間とコストがかかります。さらに、行政の監督を受けることになります。これらの制約があるから、法人としての信認が付与されるのです。
NPO法人は使うための道具
法人格は車のようなもので、営業に使うとか、週末ドライブに行くとかいう、具体的ニーズがあったら必要でしょう。が、ニーズがないのに格好いいからと買う。そうすると駐車場代や税金がかかる。ただそこに置いておくだけで、それだけの費用がかさむのです。
また、法人が寄付によって得た財産は、解散後、社員に返還できません。配当とみなされ、営利活動になってしまうからです。ですから、ためしに法人化してみようという際には十分に注意してください。「やっぱり、や〜めた」という場合、それまでの財産すべてが、宙に浮くことになるのですから。
NPO法人の仕組みは、多くの人の意志と賛同を得て、社会に対するサービスをさまざまに企画・提供していこうという「活力」をサポートするものです。新しい社会サービス、多様な社会サービスを作り出そうとするなら、法人格取得に向けての第一歩を踏み出すべきでしょう。
SSFの主張
NPO法はスポーツ界再編へのジャンプ台
求められるスポーツ団体の法人化
今回、可決されたNPO法により、市民の主体的な社会参加が期待できる。これにより、今までの行政主体であった日本の社会構造から、官民一体となった社会構造への変革の可能性をも秘めている。スポーツ界も例外ではない。今まで行政の手の届かなかった面でのサービスが、NPO法人となったスポーツ団体の活躍により、可能になる。また、行政サイドも、法人格を持つ団体であれば、容易に施設の管理、イベントや教室の運営などの事業を委託することができる。行政と市民がスクラムを組む絶好のチャンスが巡ってくるのである。
スポーツ界は、スポーツ・フォア・オールの一層の振興に向けて、何かを変えるためにNPO法に大きな期待をよせてもいいのではないか。
では、NPO法をスポーツ団体はどのように活用すべきであろうか。
資産の団体所有、法的な裏付け
任意団体の資産に対する課税は、「人格なき社団」として税務署との個別交渉となる。税務署の考えひとつで個人の資産として課税される可能性も十分に考えられる。法的には大変不安定な立場で活動しているわけだ。現に多くのスポーツ団体が日本○○協会代表××××という名義の口座で活動している。法人化は資産の団体所有を法的に裏付けてくれるもの。動産や不動産を所有しているスポーツ団体はすみやかに法人化を目指すべきだろう。
行政に望まれる民間委託の促進
NPO法のきっかけは、行政の手が回らないところまでサービスを提供する市民活動を活発にした方が市民のためになるということからだ。行政の活動には平等性という概念が付きまとう。しかしNPOの活動の基本は、あるニーズに基づいて、サービスを提供していくことにある。行政のスリム化が叫ばれ、経費の削減が求められれば、サービスの民間委託の必要性が増す。施設の管理運営やスポーツ教室、市民スポーツ大会といったイベントの企画・運営などはスポーツ団体やコミュニティ総合型スポーツクラブに委託されていくようになるだろう。その時、法人格を持たない団体は委託の対象にならないし、助成を受けることもできないと思われる。
NPO法人化の奔流が制度を動かす
NPO法は金融ビッグバンに似ている。従来の制度の中で硬直化した市場に、市民のニーズに十分に応える新たなサービスが次々と参入してくるわけである。その意義を十分に生かすためには、様々なNPO法人が生まれて活発に活動できるよう、行政はNPO法人への業務委託や資金援助といった、諸制度の策定や現行制度の柔軟な運用を工夫すべきであるが、今のところ、行政にしろ助成団体にしろ、NPO法人に対する優遇措置は明確になっていない。制度自体に追いついていないのが現状だ。そのためにはNPO法人の数が重要である。一つや二つの団体が働きかけても世の中そう簡単に動くものではない。多くのスポーツ団体が法人化し、信認を深め、活躍の機会などを増やし、早期にスポーツ界におけるNPO法人の地位を確立し、その奔流の中で諸制度を整備せざるを得ない状況をつくっていくことが求められる。
また、今回2001年まで先送りとなった税の優遇制度が認められれば、他の法人格を持つ団体にとっても大きなメリットとなるであろう。この税の優遇制度が認められるためにも、NPO法人の数と質が今後問われ続けていくこととなる。
スポーツ団体にも求められる競争原理
行政が直接実施していた活動や特定の団体に委託し続けてきた事業など、固定してしまったサービスに対して、より市民のニーズを的確に捉えたNPO法人が参入していくことが考えられる。その意味では、既存のスポーツ団体も実績にあぐらをかいてはいられない。市民のニーズに合ったサービスを提供する体制を整え、他の団体との競争に勝ち残れるだけの能力と工夫を持つことが必要となってくる。まさにスポーツ界再編への大きなきっかけになるだろう。
さあ、法人化だ。
スポーツエイドなどのお付き合いでいろいろと拝見すると、規約・会則、理事会、総会、年間計画、決算報告等々、法人化するのに何の不足もないスポーツ団体がほとんどだ。しかし、法人格なきが故の不自由さに苦しんできたことも多かったと推察できる。社団、財団として法人化に向けて準備しようとしても、なかなか進まないという団体も多いに違いない。
人格をもった団体として社会的に認知され、新たな活動にステップアップするチャンスなのだから、スポーツ団体はどんどんNPO法人化すべきではないだろうか。NPO法の良さを生かすも殺すも今後のスポーツ団体の動きそのものにかかっている。