NPO法とスポーツ団体
―SSFスポーツセミナー'98から―
今年3月19日、衆議院でまちにまったNPO法(特定非営利活動促進法)が全会一致で可決され、市民活動団体に法人格取得の道が開かれました。
この法案については、スポーツ・フォア・オール・ニュースの24号(5月号)でも取り上げましたが、SSFでは、さらに一歩踏み込んで、NPO法がスポーツ振興にどのようなインパクトを与えるのか、スポーツ団体やスポーツクラブにどのようなメリットをもたらしてくれるのかを知るために、今年7月、東京と大阪の二会場で、法案の策定に中心的な役割を果たした。
「シーズ・市民活動を支える制度をつくる会」事務局長の松原明氏を招き、セミナーを開催しました。
NPO法の中味は?
NPO法については、特に阪神・淡路大震災以降、国会やマスコミで議論になりました。まず、NPOとはNon Profit Organizationの略で、営利を目的とせず、開かれた市民社会実現のために活動する団体だとお考えください。
NPO法には、3つの側面があります。簡単に法人格を取れる法人制度であるということ。2つ目に、そのような市民活動団体に対する寄付金を税金の控除対象にしようという税の優遇制度。3つ目に、一般の人々に対して、自分たちの活動内容を開示する情報公開制度。この3つの制度が、95年の阪神大震災以降、3年間にわたって議論されてきたNPO法の中味です。ただし、今回成立した法案は、これらすべてを網羅していません。今回成立したのは、1番目の法人制度と3番目の情報公開制度です。
つまり、市民活動団体が簡単に法人格を取れるようにしましょう。そして、法人格を取った団体は1年に1回、団体の基本的な事業報告書や会計報告書を誰でも見られるように公開しましょう、といった内容です。2番目の税の優遇制度は、国会では2001年までに検討しましょう、ということで今回は先送りになりました。これが、現状のNPO法です。
NPO法の中では、法人となれる団体の条件を次のように掲げています(図1)。
これをわかりやすくしたのが図2です。右側の目的・対象の枠に入るのは、海外難民の援助活動なら難民、高齢者介護の活動であれば高齢者という具合です。また、左側、活動の支援者となるのは、会員やボランティアとして参加する人、助成財団や企業、行政など資金や運営を支援する人たちです。そして真ん中にあるのが、運営主体となる事務局です。この事務局で、一緒にヨットに乗ろうとか、障害者の方の施設を建てようとか、さまざまな活動を企画するのです。そこに、支援者が参加して多彩な社会サービスを生み出し、対象となる人々に貢献していく。このようなことが特定非営利活動と考えられるのです。
その目的・対象となる活動は、12の分野に括られていますが、これは柔軟に考えてください。障害者の方と一緒にスポーツをやるということであれば、「医療・保健」と「スポーツ」の両方の分野を選んでもかまいません。団体の活動が12分野の中のどこかに、当てはまればいいのです。
「不特定多数の者の利益」ということですが、ここが少し問題です。要するに、閉じられたグループだけにサービスする団体は困りますという話なのです。
不特定というのは、あらかじめ個人が特定されず、ある集合体をサービスの対象とするということです。そして多数というのは、集合体にある程度の規模が必要ということなのですが、サービスした結果、その規模が1人や2人であっても、それは良しとしようと、これが、不特定多数性です。

NPO法人のしくみ
その他にNPO法人となるには、図1の下にあるような要件が決まっています。
ひとつ面白いのは、要件を満たしていれば、活動の内容の是非に関して行政は何も判断しないところです。たとえば今、某県に、ある団体が認証の相談に来ています。団体名は「地球防衛軍」、「将来、宇宙の侵略から地球を守るために日々訓練する」のだそうです。活動の対象となる12分野の中に「平和の推進」とあるので、「これでいきたい」と相談されたそうです。受けた方は一瞬青ざめたのですが、NPO法の趣旨では、「認めなさい」となりました。認めた上で、どんな社会サービスを創造し、提供していくのか、法律に違反しなければ「それはそれでいい」といった趣旨。だから、こういう団体も出てくるということです。
これは極端な例としても、当初はどうなるか分からずに始めた事業でも、継続していくうちに社会で多くの支持を得ていくことは往々にしてあります。最初から是々非々でやるのではなくて、自然の淘汰に任せてみようという側面もあるのです。
NPO法は12月1日の施行が決まっています。施行と同時に法人設立申請の受付が始まります。この受付先、つまり法人の届け出先を所轄庁と言いますが、2つのケースがあります。
NPO法人を申請する団体事務局が1つの都道府県にだけあるときは、その都道府県知事。事務局が二つ以上の都道府県にある場合は、経済企画庁長官となります。


スピーディーな法人格の取得
社団法人、財団法人というのは、民法という明治30年以来、先と変わっていない法律が根拠になっています。時が経つにつれ、許可の基準や設立後の運営の基準が厳しくなり、簡単に許可されないのが現状です。たとえば、東京都ではスポーツ団体は1種目1団体と定めていて、特定種目のスポーツに関しては1団体しか認めていません。しかも、社会的に見て評価できる、つまり役所の評価が一定段階にならないと、なかなか法人化を許可しなかったのです。
ところがここ数年、スポーツも文化と同様に、市民が自由に多彩なスポーツ活動を繰り広げています。市民参加型や、また違うかたちで行う新しいスポーツ活動、そうした活動がどんどん広がっていくほうが、世の中にとってプラスになることが多いのです。
そうした観点から、社団や財団という重たい制度とは別に、もっと市民の自発性、自主性を尊重した自由かつ多様な活動を国としても支えていきましょうというのがNPO法なのです。10人の会員を集めて届け出をすれば、4カ月以内に法人格が取れるのです。
NPO法人のメリットとデメリット
資本主義社会は、ものを所有したり、契約の履行を前提として成り立っている社会です。法人格とは、つまり所有・契約の主体となることができるということ。これが、一番大きなメリットです。
実は、市民活動団体の大きな弱点は「所有」なのです。たとえば、建物を持つとします。法人格がなければ、個人の持ち物です。その個人が亡くなれば、物件は誰かが相続します。息子さんや家族などです。いくら団体の所有物だと言っても、法的には相続者のものなのです。当然相続税が発生しますから、相続人に支払能力がなければ売却しなければなりません。団体は活動拠点を失うことになります。
また、団体で資産を所有しているにもかかわらず、個人名義になっていると、所有権の範囲が曖昧になります。たとえば、みんなで使いましょうとマンションの1室を4人で買ったところ、1人が「俺、やめる。俺の持ち分返せ」と言いだしらどうでしょう。「いや、みんなで買ったんだから……」「いや、そんなつもりはない」という水掛け論のあと、結局、売らざるを得なくなったという例もあります。それが、法人になると、初めから「これ、団体所有ですよ」ということができるのです。
次に契約の主体。たとえば、任意団体には公共施設を貸し出さないということがよくあります。また、民間団体が活動を発展させていくと、企業との契約、行政との契約というものが発生します。委託契約や事業の実施契約といったものですが、これも法人格がないと契約の主体になりづらいのです。
助成財団や企業の方などは、「税制優遇がないといっても、法人に寄付するというのと任意団体に寄付するのとでは全然違う」とおっしゃいます。
寄付や助成を受けるにしても、法人格の有無で対応がかなり違うのです。
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