日本財団 図書館


舞台上の美意識

詩心を探究して行くと、多く心情的な問題に出会うが、衣装や扇などの持ち道具は、直接視覚に訴えるものだけに舞踊作品の内容に強い影響力を及ぼす。

さてコンクールの場合については特例的に「出場者演舞のルール」の中で次の様に制約している。即ち「剣舞」の場合は1]衣装は紋付など和服、または稽古衣、はかま着用とし、なるべく簡素化したものとする。2]足袋及びたすきの着用は自由とする。3]持ち道具は、武具及び扇子などとする。「詩舞」の場合は1]衣装は和服、はかま着用とし、なるべく簡素化したものとする。2]持ち道具は自由とし、なるべく簡素化したものとする。3]扇子の型状、色彩など自由とする。この様なルールはコンクールの性格上できる限り平等にするための取り決めであるが、更に剣詩舞としての芸能の、最も簡素な様式と考えてもよい。さてこうした情況の中で、作品を高めるるためには、先ず衣装について考えれば、着物や袴や帯などの色彩のバランスと、それらの模様(柄(がら))などから受ける美感覚(美意識)である。日本の装飾伝統では色彩の持つ意味とか、例えば青海波模様の様に海に因(ちな)むと云った柄などであるから参考にすべきだろう。なお全体には素直(すなお)な感覚が好ましく、反対にこけおどしの如き色や柄のものは避けるべきであろう。そしてこれらの着付けについても演舞しやすいと云う前程で、しっかり身支度する事が大切である。また持ち道具についても、ほとんど扇で代表されるが、その扇の色や絵柄が作品の内容との関係で、何を反映しようとしているのかが理解できるものであり、更に美感覚を高める効果を期待したい。

なお舞台上ではこれ以外にも基本的な身なりのエチケットやマナーを心がけて、剣詩舞の特質である品位格調を見せたい。

 

詩心を見抜く審査

さて本稿は、現在の剣詩舞が如何に内容的にレベルアップして来たか、又特に詩心表現についてのテクニックがどのように用意されてきたかをコンクール審査の目を通して検証したものだが、最後に財団主催のコンクール審査について述べることにする。

まずコンクール審査のポイント(要旨)については財団制定の「剣詩舞コンクール審査規定」に明記されていて、1]何を審査するのか、については技術的表現力から「基礎技量」「錬磨度」、芸術的表現力から「詩心表現力」「舞台表現」の四項目を対象にした事や配点について述べ。2]如何なる尺度で審査するのか、については六区分十二配点の評価法を説明している。3]如何なるルールで審査するか、についても前述の審査規定に記された細目である「審査の方法」で委員の定数ほかが示され、「出場者演舞のルール」では衣装や持ち道具の実際と、演舞の要領が述べられ、他にも「入賞者などの決定会議」や「審査委員の義務」までが示されている。しかしこの様に完備された規定書(マニュアル)があっても、最終的には審査員に選ばれた人が審査するのであるから、その人達に期待するものは大である。財団組織では度々審査員研修を行って実力の向上に勉めているが、審査員の資質としてその鑑賞能力とも云うべきものに“よい処(ところ)を見抜く”力があって欲しい。例えば失敗(ミス)を見つけて減点するのは簡単だが芸術点として、しっかりと詩心を見抜くにはそれだけの勉強が課せられることになる。万が一にでも審査員が不勉強のために、自分よがりの解釈で採点すれば、今迄積重ねて来たコンクールによる剣詩舞の向上計画は悪影響をおよぼすことになる。従って、審査員は日頃に研鑽を積み、剣詩舞の将来を担う気概で、優れた人達を選び抜いてほしい。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION