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つまり詩文の字面(じがら)(文字配列の見た目の感じ)と詩心の関係は「剣詩舞の研究」の“詩文解釈”で多くを述べているところだが、この字面に振りをつける、俗に云う“当て振り”の傾向は、上位コンクール作品からは次第に減少し、反対に詩心に対する解釈が一段と深くなって振付に反映してきたのである。

そこで問題となるのが剣詩舞における詩文の解釈の仕方である。舞踊化すると云う目的がある以上、舞踊化しにくい解釈で詩心を引き出しても無意味なことであり、この問題については本誌の“構成振付のポイント”で毎回提言しながら研究の参考としているが、しかし舞踊化するための詩心を具体的な形で並べ立て(構成)、そして振付すると云う筋道を考えると、そこには幾通りもの模索が生まれてくるのである。斯くしてこの問題は、前述した如く近年優れた成果が次第に見えてきたのは、振付指導者の努力のたまものであろう。

 

振付のテクニック

世間には“口下手(くちべた)”と云われる人がいる。豊かな知識も気配りも持ちながら、話術と云うか、はなし言葉の持ち合わせが少ないために、十分真意が伝わらなくて損をする人である。なぜこんな話を持ち出したかと云うと、詩心表現に於ける構成と振付の関係によく似ているからである。即ち大変に詩心を把握した構成が出来ても、それを舞踊化する振付の具体的な振りやつなげる手法を数多く持ち合わせないと、十分な成果が発揮できない作品になってしまうからで、そこでこの問題を解決するために、振付にはどの様な表現技法があるのかを次に述べよう。

一般論として日本舞踊や最近の詩舞などの舞踊表現は、「舞」と称する能の技法に多く見られる水平(旋回)動作や精神的内向性で品格のある動きや、「踊り」と称して人間の本能的な喜びや怒りなどを跳躍的でリズム感のある動作で示すもの、そして「振り」と称して日常的な見たり聞いたり、喜怒哀楽の感情を写実に表わしたり、行動の物まね、扇などを使った見立ての描写、花鳥風月などの情景描写など、それに諸々(もろもろ)の剣技表現などを、何時でも対応できるように、そして何が一番適しているかを選び出せるように、振付者自身の引出しの中に整理して置くことが必要である。

 

感情表現のテクニック

上手な演技者は、その感情表現について幾通りものポイントをおさえているが、このテクニックはドラマの俳優達とも共通したものがある。次にそれらのテクニックを如何にして剣詩舞の場合に当てはめるか、既に決められた構成や振付の枠の中で考えてみよう。

〈全体のムード〉 その作品全体がもつ雰囲気、例えば喜怒哀楽のどれかとか、厳粛さ、迫力的、情緒的と云ったものを心の拠(よ)り所として、振付に従って行動する。

<人物像> その演じる人物(役)の性格や境遇をはっきり知ってそれに準じた役作りをすることが大切、但し演技者が実在の人物と体形に相当な開きがある場合とか、歴史上の人物で実体がよく掴めない場合は、詩心にもとづいて演技者にふさわしい人物を創り上げる。

〈役の具体性〉 前項に類似しているが、更に現実の人物の身分職業などに関係した役作りのことで、例えば武士と僧侶を兼ねた人物の場合、その作品では総べて僧侶であるとか、前半は武士、後半は僧侶とする場合。又は作品が複数の人物で構成されている場合は、それぞれの人物の役作りの特徴を組んで、はっきりした演技を考える。

〈目配り〉 “目は口ほどにものを云い”と諺にあるが、感情表現で特に注意すべきは、“目”である。前項の人物や役についても“目”の影響力は大きいが、剣詩舞の場合は、その振付けの動作に同調する視線の動き、極め付ける目付けの効果、動作に先行する目遣いの作用が振付の流れを充実させ、しかも理解させる力になる。

〈演技の強弱〉 「メリハリを利かせた上手な人だ」と云った演技者の誉(ほ)め言葉があるが、感情表現のテクニックの仕上げは演技のメリハリであろう。演技者は作品について“何が云いたいのか”“何を伝えればよいのか”は既に理解したとしても、それらの演技の山場をどこに置くか、特に剣詩舞の短い時間での演技ではその力の配分(演技のメリハリ)を演技者はしっかり心がけなければいけない。

 

 

 

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