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(2)米国カリフォルニア州の規制動向

ア.BAAQMDにおけるSCR船建造の経緯と運用

カリフォルニア州では、特定の民間ふ頭を利用する専用船に対して排ガス規制が行政指導の一環として実施されたケースがある。これは、サンフランシスコ湾の奥にあるPittsburgのUPI社工場に鋼材を運搬する船舶に対して1989年からNOxおよびSOx対策が講じられた例である。

同工場はベイエリア大気質管理区(BAAQMD;Bay Area Air Quality Management District)にあり、太平洋を横断して工場の専用埠頭を利用する船舶は同大気質管理区内にあるサンフランシスコ湾を航行する。同地域はオゾンの連邦環境基準値および州の環境基準値を超過していたことを背景に、大型の固定発生源に対してはBubbleconceptという概念に基づいて個々のユニットでなく事業者の活動全体で規制に適合するよう指導が進んでいる。これによると新設排出源に対してはDistrict海域からの排出は固定発生源からの排出に併せてカウントするものとされていた(同District Regulation2)。

これに基づき上記工場が高炉増設を行うに際して、陸上固定発生源の排出予想量に、船舶を含むすべての輸送部門を加算することが求められ、全総量としての削減目標が与えられた。つまり、輸送船舶も規制対象とみなされた訳である。

総量規制に適合するためには、年間寄港回数および制限海域内での航行時間から逆算して、航行中における機関からのNOx排出濃度は100〜150ppm(15%O2)まで削減することが必要と考えられた。搭載主機であるMANB&W社のMS50MCの平均的な排出濃度は1,200〜1,500ppm(15%O2)程度であることから、SCR(選択還元脱硝装置)、水エマルジョン、船舶の大型化による寄港回数の減少、等の複数の低減対策が、コストや低減率について比較検討され、最終的にSCR設置がコスト高だが、将来的な排出量の余裕ができることから採用された。高炉増設時に就航した2隻および、その後就航した姉妹船1隻の建造時に、主機に対してSCR装置が設置されている。設計仕様ではNOx排出濃度1,600ppm(15%O2)を130ppmにまで削減する性能を持ったSCR装置が搭載された。ここで表4.1-3に船舶の概要を示した。また、SOx対策との関係で対策区域内では燃料油としてガスオイル(国内では軽油相当)が使用されている。

なお、SCRはサンフランシスコ湾への出入港時の数時間に限定して適用され(米国西海岸の沿岸から6mile以内)、太平洋横断中の海洋航行においては未処理の排ガス放出が認められている。

 

 

 

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