更に、造船業は他産業と比較して業務プロセスの標準化・ドキュメント化が十分ではなく、未だに熟練者の作業の進め方に関するノウハウに依存する部分が大きいと考えられ、プロセスモデルの構築作業を通して業務手順の明確化とその標準化を進め、設計における本来作業の効率化(PWCoの削減)にも寄与するものと考えられる。
3.1.2 プロセスモデルによる協業支援環境の概要
プロセスモデルとそれを利用した協業支援システムの実行メカニズムの詳細を述べるに先立って、プロセスモデルによる協業支援環境の全体像を述べる。
図3.1-2は、プロセスモデルを利用した協業支援システムの全体運用イメージである。図において技術者とエージェントが組になりーつのクライアントユニットを構成していることが分かる。2.4でACIMにおけるエージェント導入目的として分散環境におけるユーザー支援と協業支援環境へのエージェント支援があることを述べたが、エージェント技術はこのプロセスモデルによる協業支援システムのシステム基盤として、非常に重要な役割を演じている。具体的には、プロセス全体を管理するプロセスサーバー及びネットワーク上に分散した各技術者のコンピューターにエージェントを配置し、これらのエージェントがプロセスモデルの情報を参照しつつ互いに通信を行い緊密に連携することによって設計者の協業支援とプロジェクトマネージャによる全体プロセス管理を支援する。
以下、図に従って運用の全体像を述べる。まず、プロセスリポジトリと呼ばれる過去の業務経験、あるいは、あるべき業務フローの設計により作成され蓄積された標準的な作業プロセスのテンプレートを保管した格納庫(Process Repository)がある。
最初に、プロジェクトマネジャーは、これから実行するタスクについての業務プロセスをプロセスリポジトリのプロセステンプレートを利用して定義し、各作業の担当者、完了時期等の必要な情報を設定する(Process Design)。
具体的な業務プロセス情報が定義されると、エージェントは定義された業務プロセス情報に沿ってタスクが進行するように、各技術者に実行指示を出し(Enact)、作業の制御(Control)を行う。各作業者の実行状況や他の作業者とのコミュニケーションの状況は、エージェントによって常時監視・蓄積されており(Monitor)、例えば、自分の作業に関係する設計変更が発生した場合には、プロセスモデルの情報を参照しながら他の技術者のエージェントと通信し、スケジュール調整や対応手順を提案する。
一方、プロジェクトマネジャーは、エージェントが集めてきた進捗情報をオリジナルなプロセスモデルと比較することによって、プロジェクトチームの作業進捗と問題個所を随時把握し(Evaluate)、エージェントの支援を受けつつ各設計者の状況に応じた作業指示を出したり(Control)、業務プロセスの修正(Update)を伴った対策を講じることができる。