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航路が国際的に閉ざされた時代には、ソ連時代を含めロシア船による航海実績がかなりある。ロシア船航行に伴う海難、事故記録の詳細は未公開ではあり、事故解析から航法確立への合理的な検討は未着手である。

現在は、人工衛星情報を頼り所とする氷海航法が開発されつつあるが、ハード面での整備の外、航行モードを変えるための判断基準、航行マニュアルや、そのためのデータ・ベース拡充などが今後の課題となっている。

 

3.8 環境影響

先ず、商船運航による気象・海洋学的環境影響の検討を行った。何故なら、極地の海洋では、海面を覆う海氷によって熱放射量が大きく変わるからである。海氷の存在により海面からの熱放射は数十ワットに低下し、氷厚が1mにも達すれば、熱放射は数ワットまで減少する。氷海に現れるポリニアやリードからの放射熱量は、1,000-2,000W/m2にも及び、このため、氷海中の僅か5%程度のポリニアからの熱放射は、残り95%の氷域の放射熱量を凌駕することになる。検討の結果、大局的には問題のないことが明らかにされたが、この点については、航行頻度、開水路の保存、港湾内アイス・コントロールなどにより、局地的気象に微妙な影響を与える恐れがあるとの指摘もあるが、推定モデルの妥当性などについて詳細な検討が必要である。なお、船舶の航行による開水路が安定して長時間存在した場合の生態系への影響については不明である。

生態系への影響は航路啓開の是非を問う上での最重点課題の一つである。生態系に対する影響については、当然のことながら、食物連鎖、共生の上からの検討が必要であり、連鎖の底辺にあるベントスから始め、全ての生物種について検討を行う必要があるが、これはINSROP事業枠を遥かに超えたものとなることもあって、指標種による手法を採用した。

INSROPとしては、極域において環境影響指標生物種に関わるフィロソフィ及びレジームを決定し、その結果をGIS上で活用する道を付けたことも成果の一つである。このような手法による生態影響評価は、本来、採択されたガイダンスに従って地道な調査が然るべき期間継続されて初めて評価ができるものであるが、現状調査とそれに基づく予測結果によれば、局所的な問題を除けば運航によって深刻な環境影響があるとは考え難いとの結論を得ている[8]。

ただし、船舶の運航、港湾の新設、活性化に伴う環境汚染リスク分析、及び初動処置の重要な汚染イベントに即応し得る、所謂プリペアードネスについては検討不充分である。

 

3.9 法制等

NSRは、Karskiye Vorota,Vil'kitskogo,Sannikovaなどの海峡を通航しなければならいないが、その地理的条件から海峡における氷況は概ね厳しいものがある。これらの海峡については、国際法に規定され、西欧社会の通念にあるような無害通航権が認められていないことに加えて、船舶の安全運航を目的とした砕氷船航行支援が義務付けられている。また、NSR、特に沿岸航路では、ロシアの経済水域(200海里)内の航行となり、船舶による海洋汚染リスクに対する保障等について、LOSC等国際法との調和、現行国内法の解釈等、ロシア関係者による詳細な検討が行われはしたが、なお法制面での暖昧さが残っている[9][10]。現在、カナダ政府が制定したカナダ北極海海洋汚染防止法の考え方を参考に施行法整備が図られている。

 

 

 

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