第5章 結言
平成5年度より始められた国際北極海航路開発事業INSROPは、そのPhase I及びPhase II事業を本年度を以って終了し、実り豊かな成果を得た。事業開始当初に指摘された事業目的、あるいはその効果に対する疑問は、研究の進展と共に次第に解消し、現在では、INSROPは北極海に関わる今世紀最高の総合的かつ実際的な研究事業として、実業界のみならず学術分野関係者からも高い評価を受けるに至っている。
167編の研究報告書、国際シンポジウムIST'95,INSROPに連携して実施した我が国独自の技術的研究成果など、膨大、かつ多岐多様なINSROP事業成果について、その要旨あるいは主要な成果を取りまとめることは容易ではなく、一事業に相当すべきものであることから、事業総括報告は別の機会に譲るものとし、ここでは、主として平成10度事業成果について述べることとする。
1)INSROP事業の集大成
編集委員会を開催し、編集基本方針を決定した。その後、各章担当者からの原稿提出を待って内容を検討し、記載漏れ、あるいは、曖昧な記述、結論、論旨の矛盾などを指摘し、その改訂を要請した。編集員及び各章主著者との間で意見交換を行い、査読を経て、最終原稿を作成した。編集方針としては、NSR利用者向けの出版物とし、利用者が利用の可否について検討する際に有益な情報が提供されるように心掛けた。従って、技術面の記述についてはやや手薄な内容となっている。また、記述内容が、ロシアの政治、経済、法制に踏み込んだものとなることから、ロシアの然るべき官憲の査読が必要とされたが、日本側にとっては、内容上問題となるような点は殆どなかったと言える。ただし、近い将来の荷動き予想については、推定の基礎となるデータが乏しく、多少の疑念が残る。ロシア内の科料制度等については、現在なお極めて流動的であるが、概ね市場原理に適う方向への変更であると言えることから、NSRについての結論の妥当性を損なう恐れは少ない。
2)INSROP GIS
最終的には、ロシア北極南極研究所の協力を得て、現在公表されている北極海周辺の情報システムとしては、世界最高レベルの動的情報システムが構築でき、学術分野の研究者からもその効用が高く評価されている。取り扱いについては、やや面倒な面もあり、日本人利用者にとって利用容易なマニュアルを作成した。本年2月紋別におけるシンポジウムにおいて、INSROP GISの紹介を行い高い関心を得た。
3)運航シミュレーション
各ワークパッケージは有機的に連携されていることから、事業が所定期間内に終了するためには、いずれのワークパッケージも予定通り実施され、完了されなければならない。このため、本委員会幹事会メンバーが研究実施の推進調整の任に当たり、その並々ならぬ努力により、期限内に無事計画を終了し所要の結論を得ることができた。
NSR運航採算性に及ぼす因子評価については、明快な結論が得られたものと考える。