等を見ていないとしても、そのことによって先に認定したような活動を右消防職員らが行っていなかったことにはならないし、再出火を発見したときの状況についての証人Y、S及び被告本人の供述は、相互に食い違っているなど、火災という異常事態の中で、これらの者がどの程度正確な記憶を有しているかについても疑問がある。
前記のように、本件建物内においては、別個の箇所から再度出火することは予想されても、どの箇所から再出火するかを予測することはもとより不可能であるし、本件建物の大きさや構造、内部の状況からすれば、検索活動に時間を要することも避けられないところである。
そして、消防職員が本件建物南西側の入口から建物内部に入れた二本のホースのうち一本を巻き取り片付けたのは、ホースの損傷防止と通行阻害を解消するための措置と考えられ、万一に備えて一本はそのままにしていたのであるし、再出火は本件建物東側からであって、右ホースを片付けたことによる影響は考えられず、再出火後はポンプ車及びタンク車から直接本件建物東側にホースを延長して出火箇所への放水を開始しており、右放水開始まで時間を要したことも認められない。
また、再出火前の時点において、本件建物の東側には出火している箇所はなかったから、その時点において本件建物の東側に放水することは、目標物以外に放水することによる過剰破壊を防ぐためにもむしろ避けるべきことである。
さらに、一旦鎮火した段階で、現場指揮者であるEが現場を離れたこと、一部消防職員が事情聴取を開始したことについても、前記の事実経過からすればこれが消火活動の遅れにつながったとはいえない。
以上のとおり、裁判所は判断して、被告に対し、一億八六六八万一〇七四円及び遅延利息の支払を命じた。
九、 本件訴訟についての私見
(一) 本件訴訟は、消防当局が被告となったのではなく、原告の補助参加人として訴訟に参加した事例である。
保険会社から訴訟を提起された被告は、消防当局に対し、消火活動の不手際が本件損害拡大の原因であるとして、訴訟告知をしてきた。訴訟の結果について利害関係を有する第三者は、当事者の一方を補助するために訴訟に参加することができる(民事訴訟法四二条)。
本件では、消防当局は、本件火災の拡大が、消防の不手際によるものであるということになると、消防当局の責任が発生してくるので、訴訟の結果に利害関係を有する第三者である。
このように、訴訟に参加することができる。
第三者によってその訴訟の係属の事実を通知することを訴訟告知という(民事訴訟法五三条一項)。
訴訟告知を受けた第三者が、その訴訟に参加しないと、訴訟告知をした者との間では、その訴訟の裁判の効力が及んでしまう。例えば、消防職員の過失により損害が拡大したのも被告に責任があるという理由で被告が敗訴したとすると、被告から、消防当局に対し、損害賠償請求がなされ、その事件では、既に、出されている判決の効力が消防当局に及んでしまう(参加的効力という)という不利益を生ずる。
そこで、本件では、訴訟告知を受けた消防当局は、訴訟に参加する必要があり、本件では、訴訟に参加し、原告の補助参加人として、消防活動に誤りはなかったことを主張、立証(証明)したものである。
商法六六二条の規定により、損害保険で、保険者が被保険者に保険金を支払った場合には、被保険者・保険契約者が第三者に対して有する権利を保険者が取得することとなっている。
本件では、メリヤス会社は、被告に対して請負契約の債務不履行による損害賠償請求権を有するが、保険金を受領したので、損害保険会社が、保険代位により、被告に対して損害賠償請求訴訟を提起したものである。
このような訴訟で、消火活動の適否が問題となるのは、十分予想されるところである。訴訟告知を受けた消防当局としては、積極的に訴訟に参加し、消火活動に誤りのなかったことを証明しなければならない。
本件では、ホース一口を残しておきながら検索を続けており、しかも、中二階部分は、当初出火している箇所はなかったものであるから、消火活動に不手際はないとした判決は妥当である。
ただし、綿塵火災の対策を考えておく必要はあるといえる。