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Eは、現場保存及び検証に必要なカメラとメジャーを消防署に置いてきたので、Wに現場の指揮を委ね、午後三時四〇分ころ本部の日勤職員の運転する広報車に乗ってN消防署に引き返した。

(六) その間、本件建物南西側の入口から建物内に入れられていた二本のホースのうち一本は巻き取られたが、残りの一本はそのままの状態となっており、R消防士長が関係者からの事情聴取を開始していた。

一方、Eからの再度検索の指示を受けたWは、消防士長Gに検索を指示し、Gは、K消防副士長及びO消防士とともに本件建物の東側入口から建物内部に入り、一階部分の検索を行った後、Wから建物に中二階があるから中二階を検索するよう指示を受け、階段を上がり中二階の検索を行ったところ、北側の窓の下に火種を発見した。Gはその旨Wに報告したが、そのころ本件建物南東側の増築部分の屋根付近と窓から黒煙が上がり炎上した。再度燃え出した場所は消防職員らが到着したときに燃えていた箇所から二〇メートル程離れていた。

(七) 消防職員及び救急隊員らは、ポンプ車やタンク車からホースをのばし、屋根にはしごをかけて屋根に穴をあけるなどして、右屋根及び建物東側入口から本件建物の東側部分に放水を開始したが、火勢が衰えないので、午後三時五六分ころ第二出動を要請し、午後三時五八分から四時二〇分にかけてH消防署からは四名が広報車及びポンプ車各一台に分乗して、M消防署からは五名がタンク車及び軽四車両各一台に分乗して、本部からは指揮車に二名が乗り、N消防署からは電源照明車に二名が乗り、それぞれ現場に到着した。また、Eも午後三時五九分現場に戻った。

(八) その後は、六本のホースで放水を行って消火活動が続けられ、午後四時二三分ころ鎮圧(延焼のおそれがなくなった状態)となり、午後四時五二分鎮火した。

もっとも、その後も製品等への放水など残火処理が続けられた結果、最終的に放水が停止されたのは、午後六時二五分であった。

(九) 以上の火災の結果、本件建物の延べ面積一一四四・〇六平方メートルのうち、九五六・九七平方メートルが焼損し、同建物内の相当程度の機械類並びに製品、半製品及び仕掛品全部が水損又は焼損した。

これによる損害は、機械分が一億七五四一万三〇〇〇円、製品、半製品、仕掛品、原材料分が二一九三万四三一七円、建物増築部分が一一〇万八〇七四円の合計一億九八四五万五三九一円である。

 

八、 裁判所の判断

以上の認定事実を前提として、裁判所は、次の判断を示している。

(一) 本件建物のようなメリヤス工場などの綿ぼこりや糸くずが多い場所で火災が発生すると、綿ぼこりや糸くずが導火線の役割を果たし、瞬時に火が走り抜け、火元とは別の箇所で出火する「綿塵火災」が発生するおそれがある。

(二) 本件においては、当初の出火場所は、本件建物北側壁面中央付近の配電盤であり、右出火が被告の請負契約上の債務不履行に当たることは明らかである。

そして、消防当局の消防職員が最初現場に到着した時点においては、同建物西側の三か所から出火していたが、東側で出火している箇所はなく、右出火していた箇所が消火活動によって消し止められたのに対し、再度出火した場所は、これから二〇メートル程度離れた同建物北東側の中二階であって、右(1)からすれば、一旦鎮火したかのように見えても、全く別の箇所から再度出火することは通常あり得るところであり、他の原因によって出火したような事情もまったくうかがわれないから、再出火後の火災も被告の債務不履行による当初の出火に起因するものであると認められる。

(三) 右のほか、当初の建物西側部分の火災自体軽微なものとはいえないこと、被告は従来から本件建物において電気工事を請け負っており、建物内の天井や鉄骨のさん、窓枠等に綿ぼこりがついているのは普段から知っていたこと、前記認定の事実関係によっても、次のとおり消防当局の消防職員らによる消防活動に格別の不手際があったとは認め難いことからすれば、被告の債務不履行と前記七(9)の損害との間に相当因果関係があることは明らかである。

すなわち、被告申請に係る証人ら並びに被告本人の供述中には、被告の主張に一部沿うかのような部分もみられるが、右供述も、消火器具をすべて撤収したとか、消防職員らのほとんどが現場を引き揚げたり休息していたという内容ではない。

また、本件建物の大きさ、内部の明るさ及び見通しを考えれば、右証人ら及び被告本人が消防職員らの本件建物の内外における消火活動や検索活動

 

 

 

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