日本財団 図書館


る損害の発生及び損害の拡大は、もっぱら、消防当局の消火活動の不手際による再出火によって発生したもので、被告及び一般人も予測することができなかったものであるから、被告の行為とは相当因果関係がない。

 

四、 被告の主張に対する原告の反論

本件火災は、被告の過失によって発生した一連の火災である。

本件建物は、メリヤス工場であり、綿糸、綿製品、半製品、仕掛製品が大量に存在するのみならず、着火、燃焼しやすい綿屑、綿ぼこりが空中を浮遊したり、機械、什器、床面、壁面、窓枠などに堆積しており、建物全体が易燃性の可燃物に満ちていたのであって、このような中で火花が散れば大きな被害をもたらす危険性があるから、被告の過失と原告の主張の損害との間には、相当因果関係がある。

仮に、消防当局の消火活動に過失があったとしても、それによって被告が責任を免れるものではない。

 

五、 消防当局の主張

(一) 消防当局は、本件火災を覚知し、N消防署の消防職員が出動し、現場に到着し、直ちに消火、放水活動に着手したところ、現場到着から約一五分後に消火が一応認められたことから、放水を一時停止し、三口の放水口のうち一口を残して他の二口を巻き取り、排煙活動を行いながら、建物内に火種が残っていないか、更に燃え上がる危険性がないかどうかの検索を行ったところ、本件建物の二階に残火を発見し、二階から黒煙と炎が上がったため、再度消火、放水活動を開始し、出動を要請したH消防署及びM消防署の消防職員も加わって消火活動を行った。

(二) 消防当局においては、当時の人的物的装備を駆使して消火活動に当たったものであり、右消火活動に過失はない。

 

六、 本件事件の争点

本件事件では、数点が争点となったが、そのうち、特に争点となっているのは、被告の行為と、本件火災による損害との間の相当因果関係の有無である。

 

七、 裁判所の認定事実

裁判所は、証拠によって次の事実を認めている。

(一) 本件建物は、南側が公道に面した東西の間口四五・三メートル、南北の奥行が一五・七メートルの長方形の形状をした一部(東側)中二階付建物及びその南東部に増築された部分(メリヤス会社所有の倉庫部分)であるが、外見は平家建てのように見え、一階部分の床面積は八九八・三平方メートル、中二階部分の床面積は二四五・七六平方メートル、総床面積は一一四四・〇六平方メートルである。

本件建物の一階部分にはメリヤス編機等の機械類約九〇台が全体に配置されており、これらは間仕切りで区画されている。また、中二階及び増築部分は主として製品、半製品及び仕掛品の倉庫として使用されている。

(二) 被告は、従来から本件建物における電気工事をメリヤス会社から請け負っていたが、平成四年六月二二日午後三時過ぎころ、本件建物北側壁面の配電盤のヒューズの接続作業中、一次側と二次側とを取り違え、誤って一次側の線をブレーカーから抜いてショートさせてしまい、これにより発生した火花が付近の綿ぼこりに引火し、壁面や天井などに火がついて燃え出し、被告及び本件建物内にいたメリヤス会社の従業員らが消火器や水道水で消火作業を行った。

(三) 消防当局の消防署のうち、本件建物から最も近いN消防署では、同日午後三時八分、メリヤス会社の従業員から火災発生の一一九番通報を受け、直ちに広報車(指令車)、ポンプ車、タンク車、救助工作車の合計四台に一〇名の消防職員が分乗して出動し、午後三時一〇分ころ現場に到着した。また、ほぼ同時にM消防署から救急車に救急隊員三名が乗車して出動した(第一出動)。N消防署にあっては当時当番勤務していた消防職員のほとんどが第一出動において出動した。右車両が本件建物に到着した当時、本件建物の西側部分の三か所から煙や炎が出ており、午後三時一一分、本件建物南側の路上に駐車したタンク車に接続した二本のホースを本件建物南西側の入口から建物内に入れて放水を開始した。本件建物南東の路上脇の消火栓の近くに停車したポンプ車からは、右タンク車への中継用のホースを接続し、午後三時一四分から右ポンプ車による消火栓からの取水を開始した。

(四) 放水開始から一〇分前後経過したころ、火炎は一応消えたことから、現場指揮者であるN消防署長のEは、放水の一時停止を指令し、放水が停止された。

(五) 本件建物内部は煙が充満していたことから消防職員らは、排煙機を建物入口に設置して排煙活動を行うとともに、W消防士長とT消防士が建物の内部に入り、一階部分全体を検索したが、残火は見えなかったので、その旨Eに報告したところ、Eは再度検索するよう指示した。本件建物は、窓が少なく、機械類が多数置かれていた上、煙が充満していたので、暗く見通しが悪かった。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION