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消防実務に係る紛争事例解説

全消会顧問弁護士 木下 健治

 

事例二、工場火災で、消火活動に不手際があるとして訴訟になった事例

 

(解説)

一、 消火活動をめぐる事件

消火活動をめぐって消防当局が訴えられた事件としては、再燃火災、類焼火災、消火活動方法に関する事件(消防車の出動遅れがあるとして訴えられた事件等)があるが、今回は、工場火災で、消火活動に不手際があるとして訴訟になった事例(和歌山地方裁判所平成一〇年一一月一八日判決)があるので、紹介し、このような場合の消防当局の対応方法について検討したい。

 

二、 事例の概要

(一) この事件の概要は、次のとおりである。

平成四年六月二二日、軽量鉄骨造スレート葺、床面積一一四四・〇六平方メートル(増築部分含む)のメリヤス加工工場(以下「本件建物」という。)が出火し、うち、九五六・九七平方メートルが燃焼し、本件建物内の機械及び製品等が焼失したり、消火活動のために水損したりした。

(二) この火災は、メリヤス工場経営会社(以下「メリヤス会社」という。)の依頼により電気工事をしていた電気工事会社(以下「被告」という。)が、工事中に配線をショートさせ発生した火花が、付近の綿ぼこりに引火して起こったものである。

(三) メリヤス会社は、X損害保険会社(以下「原告」という。)と火災保険契約を締結しており、本件火災による保険金として、原告より一億九、六六八万一、〇七四円の保険金の支払いを受けた。

(四) 被告の加入する電気工事事業組合連合会もB損害保険会社と保険契約を締結していたので、B損害保険会社から保険金として四千万円がメリヤス会社に一千万円が原告に支払われた。

(五) 本件事件は、原告が、メリヤス会社に対し支払った保険金一億九、六六八万一、〇七四円中、B損害保険会社から支払いを受けた一千万円を控除した残金一億八、六六八万一、〇七四円を、商法六六二条(保険者代位)により、被告に請求したものである。

(六) 被告は、消防当局の消火活動に不手際があったために本件火災が拡大したので、損害賠償責任はごく一部であり、残りの損害は消防当局に責任がある、として消防当局に対し訴訟告知をした。

(七) そこで、消防当局は、本件事件の訴訟に参加することとし、原告に補助参加し、補助参加人となった。

 

三、 本件事件の被告の主張

(一) 本件火災発生時に、被告は、消火器で直ちに消火活動にかかり、消防職員が現場に到着し、放水を開始して五分後には少なくとも外見上は完全に鎮火したので、この段階では、一部壁板を焦がした程度で、これによって生じた損害は、ごくわずかである。

消防当局は、指揮者が放水停止及び鎮火の指令をし、本件建物内の検索活動も十分に行わないで、消火活動に使用したホースの筒先を取り外して巻き取ってしまい、消防車に収納するなど、消火器具をすべて撤収格納し、指揮者も現場から引き揚げ、事情聴取にあたる消防職員を残して消防車及び消防職員も現場から引き揚げてしまった。

このように、消防当局が完全に警戒を解いてしまったため、当初の火災発生箇所とは全く別の箇所で再燃し、火災が発生したが、消火活動が手遅れになった。

(二) 本件建物は、メリヤス工場であって、可燃性の高い綿くずや綿ぼこりが堆積し、綿製品や半製品が存在し、火の粉が飛散して三か所で燃焼していたのであるから、表面上鎮火したように見えても、完全には消火しておらず、他の箇所から出火する危険性があることを消防当局は十分認識し得たにもかかわらず、消火活動後の再燃を防止する何らの措置もとらなかったものであり、本件火災によ

 

 

 

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