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◎ 迅速な初期通報体制の確保

(一七)項対象物については早期に火災を覚知する手段として、自動火災報知設備を設置することが義務となっている。また、火災の初期の段階における消防機関への通報体制を確保することは、すなわち、早い出動体制を確保することであり、結果として文化財を火災により失う危険性が少しでも小さくなることから、京都市では(一七)項対象物及び指定の美術工芸品等が所在する対象物については、自動火災報知設備の火災情報を自動的に直接消防機関に通報できる体制としている。(表5参照)

 

【消防活動等の特異性などについて】

文化財である建造物には、木造のものが多く、「迅速な行動」が火災防御の基本である。建物の構造は比較的単純なものが多いが、燃焼速度が速く、可燃物の集積率が高いので「早期注水」が防御活動のポイントとなるが、本稿では、全国の文化財建造物の火災では、屋根からの出火事例が多いのが特徴であること、また、消火活動を行うと同時に美術工芸品等を搬出する活動を実施する必要があることから、この二点に絞って簡潔に述べることとする。

◎ 植物性屋根材の使用

京都市内には、檜皮などの植物性材料で葺かれた(一七)項対象物は、約二三〇棟あり、屋根の種類には草葺き(茅葺き、藁葺き等)、檜皮葺き、柿葺きといったものがある。燃焼特性をまとめると表6のようになる。

文化財建造物の屋根の消火活動を行ううえで、留意すべき点としては、植物性屋根葺材以外(小屋裏の部材や野地板などの部材)は、そのもの自体が文化財であるので、やむを得ない場合を除き、活動は損壊を極力防止する姿勢で行うことである。

一般的に屋根材に侵入した火炎を屋根表面から注水により消火することは困難であり、屋根材の破壊を併用して消火する。その他消火活動に関する事項としては、「飛火の警戒」及び「残火処理及び再燃防止」といったことが挙げられる。

◎ 美術工芸品等の搬出活動

指定美術工芸品等は文化財建造物に限らず、未指定の建造物の中にある場合も多く(京都市では平成一〇年一二月三一日現在、指定美術工芸品等が末指定建造物の中にあるものは二三〇対象物ある。)、消防活動のうえから、(一七)項対象物の所在を把握しておくことと同様に指定美術工芸品等が所在する対象物の状況についても把握しておくことが望まれる。

さらには、搬出する対象となる指定美術工芸品等については、仏像、襖絵や屏風絵、古文書、典籍、焼き物といろいろな種類のものがある中で、仏像は信仰の対象として建造物の中にあり、襖絵などは、建造物の中にあって公開されている場合が多くあることから、これら文化財の搬出に必要な技術や搬出順序などをよく理解しておくことが有用である。

京都市では、火災予防条例の規定により指定美術工芸品等の管理について権原を有する者に対し、搬出計画の樹立等、所要の指導を実施していることについてはすでに述べたが、この搬出計画が、火災時における消防隊等による指定美術工芸品等の搬出活動に結びつくものであれば、文化財等の所有者や管理者あるいは自衛消防組織の活動から消防隊等による搬出体制への移行がスムースにできることから、平常時における事業所等の実地踏査において正確な状況把握と指導に努める必要がある。

京都市では、「搬出計画作成例」を作成し、これを参考にして、搬出に当たっての留意点や優先順位等について規定した搬出計画を作成するよう指導する一方では、外来講師による研修会や文化財の救助専科教育課程における「文化財の搬出活動に関した研修」を行うなどの教育を継続的に実施しているところである。

◎ 文化財防災対策連絡会

昭和三七年七月に壬生寺(北隣には、新撰組の屯所があった。)本堂及び木造地蔵菩薩坐像(重文)、木造四天王立像(重文)焼失、九月には妙心寺鐘楼(重文)焼失と相次ぐ火災により重要文化財の建造物や美術工芸品が焼失したことを契機として、消防局が文化財保護に携わる行政機関等に、文化財の防火防災に関する組織の結成を呼掛け、昭和三七年一〇月に発足したもので、次の九機関により構成されている。年四回、定期に連絡会を開催し、文化財防災についての情報交換や防災対策の連絡調整を図るとともに、広い視野で文化財保護に対する諸問題に対処している。

京都府教育庁指導部文化財保護課

京都府総務部文教課

京都府総務部消防防災課

京都府警察本部生活安全部生活安全企画課

京都市文化市民局文化部文化財保護課

京都市消防局予防部予防課

(財)京都府文化財保護基金

(財)京都市文化観光資源保護財団

(財)京都古文化保存協会

 

【終わりに】

平成一〇年は「文化財防火運動(一月二三日〜二九日)」にはじまり、五月二〇日に奈良市の東大寺千手堂戒壇院の火災発生を受けた「文化財対象物に対する防火安全指導の強化及び緊急一斉査察の実施(五月二一日から二七日)」、「夏の文化財防火運動(七月一二日〜一八日)」から「第二二回世界遺産会議の京都市開催に伴う文化財防火の強調指導(一一月二〇日〜一二月五日)」と年間を通した文化財防火の取り組みを行うなど多忙な年であった。

本年も、文化財関係者や消防機関をはじめとする関係機関の努力のみでなく、国民の一人ひとりの文化財に対する愛護と努力による文化財を火災から守るための取り組みが実り、文化財を次の世代へと守り伝える年となることを祈念したい。

 

 

 

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