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「しかしながら、A市災害対策本部において鎮火宣言等をしたのは、消火活動の成果、気象条件その他を総合的に判断した結果であり、右被告ら及びA市消防職団員は、右鎮火宣言後も引き続き同日午後八時頃までA市消防職団員によって残火処理を行い、目視できる範囲の発煙箇所の消火活動を行った上、さらにそれ以降は、発煙発火が発見されれば直ちに消火活動が出来るように一部消防職団員が消防署や屯所で待機し、望見あるいは消防車等による巡視を行い、火災現場に近い住宅地には消防車のホースを設置したままにして置くなど、再燃に対する警戒体制を敷いているのである。

しかるに、翌二四日午前九時頃から急速に風が強まり、同九時三〇分頃市有林の本件一次火災焼き止まり線の付近で地中火が発煙し、これをいち早く発見したA市の市民生活課の職員らが、消火にあたったが風速が急に強まり、これが周囲の松林に燃え広がって手が付けられなくなるという不幸な結末を招いたものであって、これほどまで急速に山林火災が広がると予見できなくともやむを得ないといわねばならない。確かに、地中火の消火は容易でなく、またひとたび強風ないし突風が吹けばその再燃による二次火災発生の危険が極めて大きくなることは既に説示のとおりであるから、右二三日も夜を徹して消防職団員を動員し残火処理に当たるべきであったといえなくもないが、A市消防職団員は同月二二日午後三時五〇分に第三出動命令によって全員動員され、翌二三日午後八時頃まで消火活動等に当たってきたものであって、速やかに休息をとらせる必要があったということができるし、鎮火宣言から消火活動を切り上げた同日午後八時頃までの気象状況からすると、再燃による二次火災発生の危険がその日も前日に続く徹夜で消火活動を継続しなければならないほど差し迫ったものであるとは認め難く、また、地中火の存在は発煙発火しない限り発見が容易でないものと推測され、右徹夜による残火処理の成果はさほど期待できないものというべきである。」

そこで結論として、裁判所は次の判断を示している。

「以上検討したところによれば、BらやA市消防職団員において、本件一次火災の残火である地中火の再燃により二次火災が発生し、本件のような大規模な山林火災となって原告ら所有山林等まで罹災する結果を予見できなかったことは本件二次火災発生の経過から見てやむを得なかったということができる上、Bが災害対策本部長として、Cがその副本部長として、その指揮の下にA市消防職団員が行った結果発生の回避措置である本件一次火災鎮火宣言後の消火活動及び警戒体制も、当時の状況に照らして必ずしも不適切なものではなく、B及びCは、右消火活動及び警戒体制を予定し、右鎮火宣言前後から災害対策本部廃止頃までの気象状況等を総合して、右鎮火宣言及び災害対策本部の廃止を行ったものであり、また、本件二次火災発生後にB及びCが市長等として行った措置やA市消防団員の行った消火活動等にも特に結果発生の回避措置として不適切な点は認められないのであるから、それら鎮火宣言等や消火活動等の措置は、前記説示の専門職員に課せられる注意義務を基礎において判断しても、著しく注意を怠ったもので、ほとんど故意に等しいものは判断し難く、過失は認め得るとしても、それが重大な過失の程度に達しているとは到底認めることができない。」(以上、かぎかっこ内は判決の内容である。証拠の判断は省略、人名等は記号化した。)

ということから、原告の請求は、棄却されたものである。

 

五 本件についての感想

本件は、山火事の再燃火災について消防職員の重過失の有無が争われた珍しい事例である。

本件山林火災については、自衛隊や近隣町消防隊の応援出動を得て、A市の消防職員や消防団員が消火にあたった。

そして、A市災害対策本部は、鎮火と認められる状態には至っていなかったにもかかわらず、鎮火宣言をした。

しかし、A市消防職員、消防団員の残火処理は、鎮火宣言後も、発煙が目視されない状態となった午後八時頃まで行われていた。

その後、消防職員は、非番の者を除いて警戒体制をとったまま所属消防署で待機し、一部の消防職員は、午後一一時頃まで、また、消防団員も警戒体制をとっていたが、翌日午前六時五〇分頃再燃し、ただちに消火した。そして午前九時一五分災害対策本部は廃止したが、警戒体制は続けられた。

ところが、午前九時頃から急速に風速が強まり、地中火が発煙し、広範囲な再燃火災となったものである。

判決は、これほどまでに急速に山林火災が広がると予見できなくてもやむを得ないとしている。

そして、判決は、確かに、地中火の消火は容易でなく、また、ひとたび強風ないし突風が吹けばその再燃による二次火災の危険は大きいが、消防職員、消防団員に速やかに休息をとらせる必要があったし、気象状況も、徹夜で消火活動を継続しなければならないほどに差し迫ったものであったとは認め難く、また、地中火の存在は発煙発火しない限り、発見が容易でないことから、当時の状況に照らして、不適切な消火活動及び警戒体制でないとした。

その結果、裁判所は、消防職員、消防団員に著しく注意を怠った重大な過失はないとして、A市を勝訴にしたものである。

山林火災は、山林火災特有の消火に困難な点があり、消防職員としては、消火活動、警戒体制について苦心が多いところである。

本件事例も、一つの参考事例として消防当局において事例研究をし、今後の山林火災の消火、警戒体制に役立てていただきたい。

 

 

 

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