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睡眠中の臭覚に関する研究

一般に人々は自分の家に火災が発生するとは思っていないし、睡眠中に出火しても煙の臭いで目が覚めると考えている。そのためにアメリカでは住宅の煙感知器の電池が切れたり、抜かれたりして作動しないまま放置される傾向がある。

アラバマ州アイアンデール消防局のリンチ局長は、以前から睡眠中に人の臭覚は鈍くなると考えて、このことを市民指導の中心的テーマとしてきた。その後アラバマ州南部の住宅火災で二人が死亡した火災があり、自信が揺らいだ。

犠牲者は二人とも窓際で見つかったので、出火に気づいて目が覚めて避難しようとしてから死亡したことは明らかである。しかし、何によって目が覚めたのであろうか。

そして、煙により目が覚めたと考える者と睡眠中には臭いを感じないと考える者との二派に意見が分かれた。リンチ局長は、興味をかき立てられて、医学文献を体系的に調べたが、睡眠と臭覚の関係についてはほとんど何も分かっていないことが明らかになった。また、「臭覚は年齢と共に低下する」という研究論文が見つかったが、実験に使われた臭気には煙は含まれていなかった。

そこで、米国消防大学校の消防幹部課程において「煙の臭気に対する睡眠中の反応」というテーマの研究が始められた。リンチ局長は、アラバマ大学睡眠障害センターの協力を得て、煙、柑橘類の臭気及び危険性の無い数種類の薬品に対する睡眠中の人々の反応を観察する実験を開発した。

同睡眠障害センターの患者で希望者の中から目覚めている時のこれら臭気に対する通常の反応をする二六歳から六一歳までの一〇人を選択した。

睡眠障害センターの設備が整っているために、木を燃した煙と同じような臭いのする調味料の液体を正確にそして均等に室内に散布することができた。被験者に電極を取り付けて呼吸、脈拍数、目と筋肉の動き、心臓の鼓動及び脳波を測定した。睡眠の状態は、睡眠ポリグラフと呼ばれる装置で測定した。脳波計で各被験者が同じ睡眠段階に達した後、別の部屋からホースを通して実験室の部屋の中に九〇秒放射したところ、一〇人の被験者の内二人しか目が覚めなかった。

リンチ局長は、人々は睡眠中あまり臭いを感じないという実験的証拠をつかんだので、再びこの事実を市民指導計画に取り入れた。

従って、市民指導担当者は、「住宅で睡眠中に出火した場合には火災感知器及びスプリンクラーの作動による警報が唯一の確実な警報手段である」と権威を持って話すことができる。

(ファイアインターナショナル一九九八年七月号)

(文責 大野 春雄)

 

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