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手席の男性は、自ら声を発し、助けを求めていた。後部席左側の男性は、呼びかけに反応があり、この二人は挟まれている状態を認めなかった。

 

三 活動状況

一七時〇二分、覚知内容により出動指令を受けた救急隊一隊、救助隊一隊がただちに出動した。

現場の国道三号線は、九州を縦断する西回りの幹線となっているため交通量が多いうえ事故の多発する場所である。

救急隊は、ただちに処置・救出に着手するが、ドア部分は開放不能であった。事故の状況から要救助者の救出には長時間かつ、困難が予想され、救命処置が必要であると判断し、通信指令室に医師の派遣及び支援救急隊並びに支援隊の要請をした。

先着救急隊から引継ぎを受けた救助隊は、左側のフロントピラー及びルーフの一部を油圧カッターで切断し、助手席のドアを油圧スプレッダーで開放した。それと並行して救急隊は、運転席の男性にCPR、後部席右側の男性に気道確保を行い酸素投与を開始した。

助手席の男性は、開放されたドアから自力で脱出した。後部席左側の男性は、助手席の背もたれを救助隊が前に倒して救出、ともに救急車に収容、病院へ搬送した。

救助活動が継続される中、支援救急隊とともに医師二人、看護婦一人が現場へ到着した。状況、観察経過を説明、救助活動と並行して医師らの処置が開始された。

救急隊は、CPRの継続、医師の指示のもと負傷者の処置に当たった。

救助隊は、運転席の男性を救出するため支援隊と協力し、ルーフ右側の一部を油圧カッターで切断し、ハンドルと右前輪の車幅の間にチェーンを掛け、油圧カッターで拡張を試みた。しかし、救出が困難であったため、助手席まで曲がったハンドルと助手席の間に油圧スプレッダーを入れ、運転席を拡張して救出した。支援救急隊に引き渡し、医師の指示により病院へ搬送した。

次いで、救出スペースを確保するため、軽ワゴン車のルーフにワイヤーを掛け、支援車両(タンク車)で後方に牽引した後、後部席右側の男性の救出を開始した。挟まった両下腿部を油圧スプレッダーで拡張を試みるも下腿部の損傷の恐れがあった。二次損傷を考慮し、人力で運転席のシートをゆっくり動かし、間隙を広げ救出した。医師及び救急隊の管理のもと病院へ搬送し救急救助活動を完了した。

 

四 おわりに

社会経済の発展とともに、近年増加する交通事故による救急救助の需要はますます増え、多種多様化している。

今回の事例を踏まえ、今後は、あらゆる状況に応じた重層的な救急救助体制の充実・強化を図らねばならない。

そのためには、我々消防の日々研鑚はもちろんのこと、救急救助に携わるあらゆる関係機関とが相互に協力して、効率的な連携体制を確立し、組織的な活動の構築に努めなければならない。

(山下 幸男)

 

予防・広報

『うるおいのある快適で安全な社会をめざして』

奈良市消防局

 

はじめに

『あをによし 奈良の都 は咲く花 の薫ふがごとく 今盛りなり』

と万葉集に詠み歌われ、平城京の時代から連綿と栄えてきた奈良市は、平成一〇年二月一日に市制一〇〇周年を迎えた。

明治三一年市制施行当時三万人たらずであった本市の人口も、今や三六万六千人の県都として発展を続け、国際文化観光都市として大きく世界に向かって飛躍しているところである。

当市の消防体制は、本年四月一日より新組織として、消防局(五課・専門官 一人)・消防署(四署・五出張所)体制に、職員三四六人を配置し、本市の行政理念である、うるおいのある快適で安全な社会をめざし、『火事を出さない、出させない』を合い言葉に予防消防を積極的に進めている。

◎平成一〇年における予防施策の一部を紹介する。

 

一 文化財防火防災体制の強化

奈良は文化財の宝庫である。平城京の時代に築かれ先人たちによって守り伝えられてきた貴重な文化財を火災から守るため、文化財防災対策は、消防の最優先施策として市民と一体となって取り組んでいる。

 

 

 

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