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「表現力」と併せてコミュニケーションの中で更に大切な「傾聴し合うこと」が職場の底辺に有ることが求められるのだ。

リーダーが職場内で部下との間で日頃から「傾聴」などしていない所では、なにかいまひとつ人間関係の面でシックリしない雰囲気を内含させている。目標に向かっては一応、取り組んでいるのだが、ホンネの出ない、表層的な付き合いが多い。そこでは、仕事に付随した(仕事中心な)会話はあっても、話し手の話文言葉の底辺や背景あるいは言葉の裏に潜む感情・気持ちを聴かず、またそれを伝えていないからだ。

だから結果的にイキイキとした人たち(目をランランと輝やかせた、表情豊かな、自分の気持ちを偽らない、喜怒哀楽の表現を恐れることなく、イキイキとした『あぁ、生きている人間なんだなあ』と感じさせる人たち)の存在を感じさせないのである。

ヒトが資源・財産である人間集団(職場)にあって、消防士という職業人(業務遂行人)としてだけでなく、消防士以前の、生きた人間としてのヒトがいてこそ、それが底辺で大切にされてこそ、ヒトはヤル気という気持ち(感情)に火を点ずるのである。

他人の気持ちを聴けるヒトは、つきるところ、他人の痛みや苦しみ、また喜びにも共振・共感できるヒトなのだ。他人の気持ちが聴けないヒトは、それゆえに、そのヒトの気持ちを誰もが聴かないことになっていってしまうのである。

この「傾聴力」は、ヒトとして他人に与える影響力を強く持つヒトすなわちリーダーシップを取るヒトに必要不可欠なポイントとなるのである。

 

■ 「説得力」がリーダーシップ巧拙の決め手だ

職場に万が一にも同質化が進んでいたら恐ろしいことになる。関係者全員が物事の価値観・是非という判断基準の固定化・暗黙の了解・不文律の面で同根同質化が蔓延し、それが永くつづくと間違いなく「○○の論理(その職場でしか通じない常識)」が蔓延することになる(永田町の論理と言われるが如くに)。

言うまでもないことだが、本来ヒトはみな違うのだ。立場はもとより解釈・意見・考え方・見方など。にもかかわらず、組織としてバラバラではよくない、まとめなければならないということで、違うバラバラなものを基準・規定・慣行などを用いて統一する。あるいは、リーダーに権限(決定権・承認権・命令権・行為権)を与えてまとめさせる。

これ(権限の行使)は許される範囲とできるだけ避けた方が良い場合とがある。状況によっては、権限でもって目標に強引に向かわせる場合もある(事故現場・緊急事態の発生時など)。しかし別の状況では(あるいは部下によっては)権限で動かさず、説得して「動く」よう持っていくのが最上な時も多くある。

ヒトはリーダーの指示・命令で単に動かされるより、時として、状況によって、テーマ・課題によっては、「言われて動く」より、「自らの意思に基づいて動く」ことを欲求する。自らの思考・意見・解釈などに自信を持つ事柄・対象ならなおさらである。自らが納得できないことには、いくらリーダーの言うことでも素直に従えないものだ。だから議論になる。時として激論に発展する。このことはすばらしいことなのである(とかく日本人の間では、あるいは日本の職場では議論・激論が無さ過ぎる)。互いに徹底的に自己主張しないでいて、まとめてしまう。それでいて赤提灯や縄のれんをくぐってのノミュニケーションでは闊達な(ホンネでの)昼間言えなかった意見・主張を吐き出している。昼の会議室で堂々行うべきなのに、議論は…。

ナゼ議論が少ないのか、という根本原因のひとつに、「説得力」の不足があることを、この際に知らなければならない。特にリーダーシップを発揮すべき立場の人たちは。

国際化が進む今日この頃、また、ディベート学習を得て職場に入ってくる若手職員を多く部下に持つリーダーが、この説得力の欠如があったら、リーダーとして失格という烙印を押されかねない時代・社会になってきたのである。

筆者の知るところ、説得力のないリーダーほど権限とくに決定権・命令権を過度に行使している傾向を持っている。「これは上からの命令なんだ!」「上司の意向はね、実は…」と言うように。

 

■ 「説得力」というものを完全に理解し、自己研鑚を積み重ねよう

説得力とは自分の考えを他人に理解・納得させて、自分の思った方向に動いてもらうこと、である。

そのためには、

1] 相手を理解し、自分も相手に理解されるという関係をつくる、

2] 説得の目的をハッキリさせる、

3] 情報収集を全方位から多角的に多面的に立体的に、十分に行う、

4] 自分の考えを筋道立てて、論理的にまとめる(理論武装をする)、

5] 説得するんだ、という強い信念を持ちつつ、相手に誠意をもって当たる、

6] 相手に合った(相手の状況を知って)説得の方法を考える、

7] 時として演出を考える、

8] 感情的にならない、

などの原則を基礎に置き、説得の要件すなわちつぎの四つの点を心がけることである。

1] 的確な意思

・ 目的はなにか、何を伝えたいのかという説得内容の的確な構成をしておくこと

・ 論旨が明快で一貫していること

・ 判断材料が十分に収集され、多角的に検討されており、考え落としのないこと

・ 事実や実態の把握が適切で、説得内容がキチンと裏打ちされていること

2] 強い心のエネルギー

・ なんとかして自分の考えを実現したいという熱意と気迫を持って説得すること

 

 

 

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