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・ 粘り強く説得すること

3] 説得の技術

・ 説得に有効な技術について日頃から関心を持ち、機会をとらえて試してみること

・ 情報の分析・加工・視覚化について工夫をこらすこと

・ 相手の立場に立って考えること

・ 同意を得る/意思決定を迫ること、参画を得ること、質問して反応を把握し、主体的な思考を喚起すること

・ 人を見て法を説く

4] 平素の信頼感

・ 相手の立場、性格、期待、関心事を把握・理解すること

・ こちらの立場、性格、期待、関心事について理解を得ること

・ 好感を持ってもらえる態度、振舞をすること

・ 連絡をマメに行うこと

こう書いてくると、本文をご覧の読者には、かなり理屈っぽい内容なので、嫌気を招いてしまう方もいるだろう。

しかし、現実の職場で目標達成を義務づけられているリーダーには、新提案・新企画書の売込み時に、求められて止まない「説得力」なので、多くの企業で、管理職を中心とした教育・研修に、この説得力向上のプログラムが含まれている。そして筆者は現実に具体的に指導していることなのである。

 

■ ヘッドシップをリーダーシップと混同するな

丁々発止の、時には口角泡を飛ばすような激論のプロセスで、リーダーが他人(部下たち)に与えた(与える)影響力、言い換えれば、ヒトとして他人に与えた(与える)影響力、これが実は、リーダーシップなのである。

ヒトとして持つリーダーの他人に対する影響力が、リーダーシップの骨幹をなすのであって、部長・課長・係長といったような職制上の役職者が「制度的な権威(権限の行使)」によって部下を統制して、組織・職場を共通の目標に向かわせることは、当然必要なことではあるが(専制的リーダーシップを発揮する状況ではOKだが)、この公的な制度上の権威による統制は、強いリーダーシップすなわち影響力に裏付けされてはじめてその効果を発揮するものなのだ。部下からのリーダーに対する自発的・積極的な共感・心服があってこそ、公式制度上の権威に基づく指示・命令など十分に部下に徹底し得るのだから。

この公式制度上の権威のみによる統制を、本来は、リーダーシップとは言わず、「ヘッドシップ(首長型)」といっている。また、「ポジション・パワー」による統制ともいっているが…。

このヘッドシップだけでは、職場の中に本当の融合は生まれないのである。もしも、リーダーが自己の立身出世や保身のみを考えるだけで、何の使命感の裏づけもなく、部下や他人のことも考えずに制度上の権威だけに頼って行動するならば、部下はリーダーを信頼しようとしないだろう。その結果、表面だけの服従をするか、部下も利己的な行動をとるだけで、職場の士気やヤル気の向上は減退するばかりである。

反対に、全体のためを考える度合の強い、つまり、組織の存立、その繁栄と部下のいきがい・働き甲斐を重視する視点から目標達成に前向きなリーダーには、部下は大きな信頼をよせる。強い使命感・責任感で、あるときには率先垂範し、状況・課題に対しては徹底的なディスカッションを惜しまないリーダーには、部下は心服してついてくる。

ところで、ヒトは他人(部下)にどうしたら影響を与えることができるだろうか、ということだが、たとえばそれは、組織上の長が、単に他の人より、より正直だから、より知識人だから、より経験が豊富な人だから、勤続年数が長い、年齢が上だから、とかというだけで影響力を与えられるだろうか。

その時々の職場の環境や、職場の置かれた状況によっては、目標達成に向けて一丸となって邁進する時、長い勤続年数・年上・正直で豊富なキャリアの持ち主だからというだけで、必ずしも部下はリーダーを心服するとは限らない。

部下の一人ひとりを十分に理解し、部下同士の相互関係を理解し、部下との理解・共感を深め、部下の能力を高め、意欲や彼らのエネルギーを引き出し、共通の目標に志向させ、職場の目標を達成させる強い使命感・責任感を持って、臨機応変な対応をし続けるリーダーにこそ、部下たちは信頼と尊敬すなわち影響を受けることとなるのではないだろうか。

 

■ 影響力で部下を動かせ

リーダーがリーダーシップを発揮するには、自らの他人に与える影響力の出処を知らなければならない。そしてそれらを身につけるべく、自己研鑚を積まなければならない。

ひとつの影響力の源泉として、紹介したいのが、図表4である。この中にある十二項目すべてに4ないし5に○印のできるリーダーであり、レーダーチャートが全方位に脹らんでいる一円形状になっている)ことが望ましいのだ。

 

■ 絵に描いたような理想的なリーダーはいない、『採長補短』でゆけ

しかし、いままで述べてきたような、すなわち状況をシッカリ見定め、瞬時瞬間に的確・迅速に即応し、いかなる目標をも達成しつつ、個性豊かな多くの部下たちに「表現力」のよろしきを得、「傾聴」を徹底的に行い、多種多様な意見・異論・見方・考え方を尊重しつつ「説得」を上手に進め、影響力を行使しつづけよ…となると、現実問題として至難なわざではないだろうか。もし、このようなリーダーがいるなら、それは限りなくカリスマ性を持ったごくごく少数の者なら兎も角もである。ここではカリスマ的リーダーは求めない。一過性で継続性がなければ組織は存在し得ないからである。

期待するリーダーシップを実現するには、現実のリーダーが部分的にせよ現に持っている優れた点で、周囲に影響を与えて行けば良い。リーダーが持ち合わせていないところの不足部分・弱点・不得意な部分などは、部下たちの優れた部分を活用する意味を込めて、自らのそれを彼のそれによって補完してもらう。その部分に関して、彼に影響を周囲に与えてもらう。彼にリーダーシップを取らせるのである。リーダーもリーダーシップを発揮するが、別の部分で部下のA君が、異なる状況あるいは目標ではB君が…というように。リーダーシップとはリーダーの独占所有物で、部下にとっては無縁なものである、というものではないのだ。

 

 

 

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