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「地すべり」に対して「山崩れ」は「地震型山崩れ」、「豪雨型山崩れ」、「地下水型山崩れ」などに分類される。「地震型山崩れ」は強い地震動を受けて山腹斜面が崩壊するものであり、「豪雨型山崩れ」は集中豪雨など、激しい雨を受けて斜面の表層部分が掃き出されたような形で崩壊するものである。図-四に「豪雨型山崩れ」として記憶に残る高知県繁藤の崩壊状況(四七年七月豪雨災害)の写真を掲げる。「地下水型山崩れ」は地下に浸透した地下水の異常な湧出によって崩壊を発生させるもので、事例としては、かつての信越線・熊の平駅裏の大規模な山崩れがこの型のものとされている。

このように整理してみると、「地すべり」と「山崩れ」の間には、顕著な特性の差があることが理解できる。「地すべり」には本質的に、その土地に崩壊を引き起こす体質的なものが内在していることであり、「山崩れ」では、きっかけとなる地震動や豪雨など、外からの作用によるものである。前者のように体質的なものを「素因」、後者のように、きっかけとなるものを「誘因」と呼んでいる。実際には素因と誘因とが絡み合う場合も無いわけではないが、素因と誘因とが重なり合って初めて現象が発生するといった過程をとるものではない。

一般的に言えば、地すべりは素因が、山崩れは誘因が、それぞれ支配的な役割を果たしているものと言える。

したがって、図-二に掲げた地すべりの分布図においても、地域の地質条件としての素因(体質)が、地すべりの分布の上でも、顕著に現れているものと理解することができる。

 

災害の発生過程

斜面の崩壊現象が自然現象であると考えることは前述のとおりである。

このことは、斜面の崩壊が、地球の歴史の上で、長い間のうちに、雨・風・波浪・地震その他の作用を受けて、陸地の高い部分は削られて、平坦な地形に変わっていくという、地形輪廻に係る営力の一場面が発露されたものと考えるのである。

このことは、長い地球の歴史の上でのことであり、人間の限られた生活経験からは理解し難いことなのである。

したがって、このような自然と上手に付き合うためには、相手を良く知る謙虚さも必要である。

図-五は、斜面の崩壊現象を例とした、災害の発生過程を示した図である。

図中、太い曲線で囲んだ範囲が、繰り返し述べた自然現象に相当する部分である。上段に素因/誘因と表示した原因の位置づけを示すボックス部分があるが、斜面の崩壊現象は、このボックスのいずれかの部分から発生する。これまで述べた「地すべり」は左側に近づき、「山崩れ」は右側に傾斜する。後述の「土石流」や「崖崩れ」等も、当然、このボックスのいずれかの部分に含まれる。

傾斜の度合いは個々の事例で異なっている。この位置づけによって「対策」の在り方も異なることは言うまでもない。

その結果、斜面の崩壊といった現象そのものが発生するのである。ここまでが「自然現象」と考えられ、地域における災害に対する脆弱性を知るための、いわゆる防災アセスメントにおける災害別危険度の主要な部分はこの範囲に属するものと理解している。

しかしながら、一方では、大小様々な人為による自然改変が展開されていることは否定できない。この場合、自然による回復可能な範囲であれば、自然現象の一部と捉えても、さほどの問題は無いと考えるが、そのような状況では無い場合には、いわゆる防災アセスメントの範疇に属するものではなく、防災インパクト・アセスメントの範疇に属するものとなる。

 

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図-5 斜面の崩壊による災害の発生過程を示す図(細野原図)

 

防災アセスメントが環境アセスメントの防災版と誤解されやすいが、環境アセスメントが日本に伝えられた当時の日本語訳「環境影響事前評価」が本来の原文に近い訳語であり、それが変えられて現在使われている環境アセスメントとなったのである。ちなみに、環境アセスメントに相当する間違えることのない原文も別に存在する。この原文中の「環境」を「防災」に置き換えたものが、ここでいう「防災アセスメント」に相当する。この件については「消防科学と情報」第一八号に松井健氏の詳細な記述がある。

 

 

 

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