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土石流災害について

奈良大学教授 細野 義純

 

はじめに

「土砂災害」として総括した形で表現される「斜面の崩壊現象」のなかで、土石流の位置づけとともに、斜面の崩壊現象の分類について明らかにしておくことが、現象を知るためにも、また対策を考える場合にも重要であると考えるので、最初にこの点を明らかにしておきたい。

そもそも「土砂災害」といった用語は、筆者の知る限り、かつては斯学の用語としては存在しなかったのである。昭和五七年の長崎水害、翌五八年の山陰水害を期に、某白書の中で「近年、土砂災害による被害が増加の傾向にある」といった表現が最初のことではなかったかと記憶している。その後、災害現場での感覚からみると、まことに言い得た表現であることから、急速に普及・定着したものではないかと考える。

ここで言われている「土砂災害」に相当する語としては、あえて言えば「斜面の崩壊現象による災害全般」を包括しているように思われる。図-一にこの関係を明らかにしておきたい。

筆者がこの点にこだわるのは、斜面の崩壊現象それ自体は自然現象であり、崩壊に至る因果関係(本質的なもの)の位置づけが、比較的明瞭であり、その結果、現象としてもたらされるものが崩落した土砂なのである。この経過を現象のみに着目して、本質的なものを軽くみると、災害を認識する上で大きな誤りを起こしかねないといった危惧を感じるからである。

 

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図-1 土砂災害(斜面の崩壊現象)の体系(細野原図)

 

斜面の崩壊現象

「斜面の崩壊現象」は大別して「地すべり」と「山崩れ」に区分することができる。

「地すべり」は、さらに「第三紀層地すべり」、「破砕帯地すべり」、「火山性地すべり」、に分類される。「山崩れ」も、また「地震型山崩れ」、「豪雨型山崩れ」、「地下水型山崩れ」、に分類することができる。「第三紀層地すべり」とは、地質時代の「第三紀」と言う時代(今からおよそ二〇〇万年から六、五〇〇万年前までの間)に生成された地層の部分が剪断破壊を受け地すべり粘土として滑動するもので、第三紀層のなかでも、とくに、二、○○○万年から二、五〇〇万年前頃に堆積した粘土が、現在、固結して、頁岩と呼ばれる岩石となった地層中に顕著に認められる。頁岩とは、比較的に言えば、岩石としては未だ十分な硬さにはなっていないもので、同種の堆積物でも、長い時間と固化するための条件が十分に整えば、いずれは碁石(黒)や硯のような硬い石(粘板岩=スレート)になるものなのであるが、この程度の時間等の条件では、またそのように硬化した段

 

 

 

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