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消防体制は、一本部・二署・一一出張所・一分遣所で職員数は三九三人である。

市民の防災を担う当本部は、過去幾多もの災害を最小限にくい止め、消防力を最大限に生かし市民に信頼される消防行政として今日に至っている。

今回紹介する事例は、乗用車の単独自損交通事故で一瞬にして若者三人の命を奪ってしまった事故である。

 

一 事故発生の状況

事故発生場所は、当市と横浜市の境を流れる境川を横切る県道で、約一二〇m当市に入ったところで発生、左カーブのゆるい上り坂となっており横浜方面から走行してきた乗用車は、このカーブの手前でスリップし道路右側の電柱に激突。車両はくの字型に曲がり、歩道脇のフェンスと電柱に挟まれる形で停車した。

 

二 事故の概要

(一) 発生日時 平成九年一〇月一六日(木曜日)事故時間不明

(二) 発生場所 藤沢市西俣野八四三番地付近県道上

(三) 覚知時間 〇時五二分

(四) 覚知内容 携帯電話から一一九番通報

(五) 現場到着 一時〇一分

(六) 活動完了 一時五〇分

(七) 要救助者 男性二人 女性二人

(八) 出場車両・人員

指揮車一台二人・救助工作車一台五人

救助特送車一台二人・消防車一台五人

高規格救急車四台一二人

 

三 現場到着時の状況

○時五四分、交通事故による救急指令で出場した北本署救急隊長は現着後次のとおり状況を把握した。

一時〇一分現着、道路左側の一(救急隊進行方向)電柱に乗用車が左フロント部分を食い込ませ、さらに右側面は鉄製フェンスに接触した状態で停止している。

直ちに負傷者の状況を観察すると、運転席に女性、助手席に男性、後部席右側に女性、後部席左側に男性が閉じこめられているのを確認した。助手席の男性は頭部以外の体幹がダッシュボードと座席に挟まれ、頭頂部から左顔面にかけて皮膚面が剥離しており呼びかけに反応がなかった。次に後部席男性に呼びかけたところ意識清明、前顎部を切傷し右足が助手席と後部席に挟まれていた。後部席右側の女性は、頭部から出血が見られ、呼びかけ反応はなく総頚動脈も触知できなかった。運転席の女性は、遅い胸呼吸をし、左額部に三cm程度の挫創が認められた。また、左足がコンソールボックスとブレーキペダルに挟まれているのが視認された。

 

四 活動状況

(一) 一時〇四分現着した救助隊長は救急隊長の報告を基に現場確認し隊員に次の指示を与えた。

ア 救助資器材の準備(油圧スプレッダー、可搬式ウィンチ等)

イ 出火に備え消火器の準備及び消防車の水利部署

ウ バッテリー端子の取り外し

エ 輪止め

(二) さらに観察すると、車両サイドドアは車体変形のため開放困難となっており、ワゴンタイプの乗用車であったため唯一後部トランクドアは無傷であった。

以上のことから救助隊長は次のように活動方針を決定した。

ア 救出の優先順位1]後部席右側女性 2]運転席女性 3]後部席左側男性 4]助手席男性

イ 救助隊はフェンスの切断と運転席ドアの開放

ウ 消防隊は後部トランクドアからの救出

エ 救急隊は負傷者の救命処置

(三) 消防隊は後部トランクドアを開放し後部席右側女性(頭部より多量の出血、脈・呼吸なし、瞳孔散大)を救出。(A病院収容、診察の結果頭蓋内骨折、一時五一分死亡確認)

救助隊は、油圧カッターによりガードフェンスを切断し、変形している運転席のドアを油圧スプレッダーを使用して開放。並行して救急隊は運転席女性(胸呼吸で遅い呼吸、左額部挫創)に酸素投与及びネックカラーの装着を行った。次に、コンソールボックスとブレーキペダルに挟まれている左足首をバールを使い開放し救出。(B病院収容、数時間後に死亡)

 

 

 

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