第2節 地域スポーツとしての指導と留意点
地域で行われるスポーツ教室(道場)には、「体を強くしたい」「喘息を治したい」など、さまざまな目的を持った子供たちが集まってくる。学校体育のように、必ずやらなければならないのではなく、やるかやらないかの決定権は子供たちにある。しかし、空手道を学ぶ目的は、大概は親の希望であることが多い。やらせる形での指導では子供たちの興味も高まらず、練習の効果も期待できないことはあきらかであるため、指導者と親のコミュニケーションを大切にしながら子供たち中心の指導になるよう、常に気を配らなくてはならない。ここで間違いやすいことは、子供の言うとおりにしなければならないのか、ということである。小学生の心理・精神的発達はまだまだ未完成であり、その場その場の判断が的確であるとは断言できない。また、いやになってすぐにやめてしまうようなことを繰り返していると、いやなことやつらいことからは逃げて、少しでもつらいと「キレた」などという行動へと移ってしまうと思われる。まずは、始めると決めた時から、根気よく続けられるように親も指導者も心掛け、環境をつくり、指導法や内容に工夫をしなければならない。もし、本当にその子に「合わない」と感じた時には、よく話し合った上でその後のことを決めることが望ましい。
学校教育との大きな違いは、学年・年齢がまちまちであることである。そのために、練習内容・方法は多岐にわたり、それらを駆使して発達段階に応じた指導をしなければならない。例えば、6年生に合わせた指導をすると1年生には難しすぎるし、1年生に合わせた指導をすると6年生は退屈でやる気が起こらない。学年別で指導を行っても、同じ学年に黒帯もいれば、紫帯もいるということは、内容に差がでてしまう。そこで、道場の指導でよく行われていることは、帯の色ごと(級や段)に分かれて行う指導形態である。年齢はさまざまであっても、学習内容に同じ部分が多く見られることから、指導はしやすくなる。
また、帯の色(級や段)は、年齢や学年で見る「おにいさん、おねえさん」のような人間関係ではない関係をつくり出す。例えば、3年生で2級の子は5年生で5級の子よりも「先輩」なのである。だから、先輩が後輩を教えるという指導の方法をとったとき、年齢で見ると、3年生が5年生を教えることも大いにあり得ることである。
このように子供同士で教え合うことは、子供たち自身の理解を深める上でも効果的であり、教えるという行為に責任感を感じたり、異なる学年の子供に思いやりを持ったりすることなどが期待される。
地域のスポーツ指導は、以上のような指導の難しさがある一方、子供たち同士のふれあいは学校教育以上のものが期待できる。そのためには、父兄の協力が不可欠であり、また地域からの支援も大きな支えとなる。また、家庭や学校で補いきれない部分や、人として最小限のマナーを教えるのも指導者のつとめである。地域スポーツ指導者は求められる事柄が多岐にわたり、非常に難しいことばかりであるが、それだけに重要であり、今まさに求められている人材である。