2 武道とスポーツ
武道とスポーツの性格には共通する部分が多いが、人間形成を目指す教育としての武道はスポーツと異なるという主張がある。
確かに武道では、伝統的に精神的な面を尊重する考え方が重視されており、欧米で発祥したスポーツと比較して、より修養的、鍛練的な目的を強く持っている。
スポーツは、本来的に活動自体を目的とする運動であり、それぞれ固有の技能、規則、行動の仕方がある。スポーツは、おおむね個人的、対人的、集団的なものに分けることができるが、空手道は、対人的スポーツの中の格闘形式のスポーツとしての特徴を持つものとしてとらえることができる。
空手道は、このような性格を持つ一方、中国の拳法を源流としつつ、我が国固有の武技の一つとして発達してきた経緯を持っている。したがって、空手道指導に当たっては、日本古来の伝統的な行動を重視した運動としての特性に着目した指導が大切となる。
3 武道と礼
我が国の武道における「礼」は、スポーツにおける行動の仕方とは異なったとらえ方がされる。武道では、試合などにおける激しい攻防の後、まだ心理的な興奮が治まっていないときでも、その興奮を抑えて、正しい形で丁寧な礼を行うことが求められる。礼を重んじ、その形式に従うことは、自己を制御するとともに相手を尊重する態度を形に表すことであり、その自己制御が人間形成にとって重要な要素であると考えられているのである。
4 武道と勝敗
スポーツの試合では、勝者がその喜びを敗者の面前で身体で過大に表すことがあるが、武道ではこのようなことは慎むべきこととされており、相手に対する思いやりが極めて重視される。
武道における試合を行う者の関係は、「道」(人間としての生き方、在り方)を共に学び合う仲間同志であり、敵と味方という対立的なものではないという考え方がある。自分が勝つことのできた試合が成立したのは、共に学び合う相手があったからであり、さらに互いが目指す目標は「道」を極めることであって、試合の勝敗にこだわることは慎むべきことであるという考え方が重視されている。