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摘要

 

かつて、ため池、水路、水田からなる稲作水系に多く見られた水生昆虫は、近年、水田そのものの消失や圃場基盤整備、あるいは農薬・生活排水などの流入による水質の汚染・汚濁などにより、減少を続けている。一方で、このような水生昆虫とその生息場所の保護・保全のために休耕田などを利用した「ビオトープ(生物空間)」造りが各地で盛んになりつつある。しかし、こうしたビオトープでのモニタリング調査はまったく行われないか、あるいは特定の種やグループのみを対象として行われることが多く、水生昆虫群集全体の遷移についての研究はほとんどなされてこなかった。そこで本研究では、中山間地域の休耕田を利用してため池を造成し、そこに成立する水生昆虫群集の遷移を継続的に調査することにより、その特性を明らかにし、水生昆虫の「レフュージア(避難場所)」としての評価を行った。

調査地は、大阪府豊能町の標高約300mの山間部にある棚田最上部の休耕田に設定し、1996年5月11日に畦などを整備して水をひき、面積約180m2、水深10〜20cmの浅いため池を造成した(以下調査地A)。調査は1996年6月から1998年10月まで毎週1回、畦の上を歩きながら、畦から1m以内のため池内にいる水生昆虫を目視あるいは水生昆虫網ですくいとって確認し、種ごとに個体数を記録する方法で行った。また、この調査地の水生昆虫群集を既存の稲作水系と比較するために、1998年の4月から、直線距離で約10km離れた同府能勢町の標高約300mの休耕田でも同様の調査を行った(調査地B)。

(1) 調査地Aにおける水生昆虫群集の遷移

調査地Aのため池ではさまざまな生物が見られたが、両生類については、モリアオガエルやアマガエルなどが造成直後から調査終了まで同じ種構成で確認された。魚類では、2年目の秋にドジョウの侵入が確認された。植生については、ヒメホタルイ、コナギ、キカシグサ、ウキクサなどが順次侵入し、2年目以降にはコナギが見られなくなったものの、他の種は継続して確認された。また、渓流からの水の流入域は運ばれた土砂により、水深は浅くなっていった。

昆虫類については、ため池造成時にはマツモムシとヒメアメンボの2種のみであったが、1998年10月までの2年5ヶ月の間には、カゲロウ目、トンボ目、カワゲラ目、カメムシ目、ヘビトンボ目、コウチュウ目、ハエ目、トビケラ目の8目に属する56種、のべ50,990個体の水生昆虫が確認された。

 

 

 

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