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今後、水生昆虫の保護を考えていく場合、その保護の対象とする種が遷移系列のどの段階に出現する種であるかを考慮にいれ、さまざまな系列をビオトープ内に用意するといったことが必要であろう。また、ごく小面積のビオトープの保全を進めたとしても、いつも多様性に富んだ止水性昆虫群集が形成されるわけではない。それは、豊かな自然の失われた都会の中にため池を造った場合を想像すれば理解できるだろう。本研究で造成したため池に、すみやかに多種の水生昆虫が再移住したのは、まだ自然の残された大阪北部の中山間地域という立地によるものと考えられる。飛来可能な範囲内にそれらの水生昆虫が生息していたのである。当然のことであるが、ため池を造っても他の生息水系とのアクセスが絶ち切れると、水生生物の再生は難しい(Steytler,1995;日鷹,1998)。本調査地においても多くの種がこのため池だけでなく他の止水環境との間を行き来しながら利用していたものと考えられる。長期的な水生昆虫の保護には、遺伝的な多様性の保全を考慮しなければならず、そのためには個体の交流が可能な大小の小個体群からなるメタ個体群構造の維持が重要である(一ノ瀬,1997)。したがって、今後、各種の分散・移動能力や時期についてのデータを集め、ビオトープ間のネットワークの構築に応用させていくことが重要である。

 

 

 

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