日本財団 図書館


総合考察

 

止水的環境は、一般に一時的環境である(原田,1994)。近年、我が国では天然の湿地が著しく減少しているが、そのような状況では人工的な水域も水生昆虫にとって重要な生息場所である。その代表的なものは水田であり、水田は、日本の陸地面積の約6.8%(約250万ha)を占める重要な生態系の一つである(日鷹、1998)。わが国に広く存在する水田を生息地とすることに成功するか否かは多くの止水生水生昆虫にって重要である(新井,1996)。しかし、このような不安定な環境に生息する昆虫には移動能力が必要不可欠である(原田,1994)。本研究で、今回造成したため池には、主に、成虫の飛来によってさまざまな水生昆虫の侵入が認められたが、移動力をもつ成虫により新たな生息場所への移入がすみやかになされるのは、止水性昆虫の特徴のひとつと考えられる。

ため池造成から1年目と2年目の水生昆虫群集を比較した場合には顕著な変化が認められたが、2年目と3年目を比較した場合には1年目と2年目ほど大きな群集構造の変化が認められなかったことから、このため池における水生昆虫群集の遷移はかなりすみやかに進行したものと考えられる。また、水生昆虫群集の遷移は、全体として見ると、現存種数と個体数は比較的すみやかに一定のレベルに達し、その後は安定して推移するようになるものの、グループごとに見ると、トンボ目や、カメムシ目のように消滅する種がほとんどなく種数が増加するものと、コウチュウ目のように種の入れ換わりが顕著で次第に減少するものなどさまざまであることが明らかになった。そして、わずか2年5ヶ月という短期間とも言えるあいだに、顕著な群集構造が認められる遷移の速さは、昆虫類の群集の特徴のひとつとも言える。

調査地Aと調査地Bを比較した場合にも、優占4種の種構成や占有率がほぼ同じであったこと、共通して見られた種が51種であったこと、そして、造成後、年を追って調査地Aの群集構造が調査地Bに類似してくる傾向が認められたことは、同じ地域にある同じタイプのため池では、そこに成立する水生昆虫群集の構造はある一定の方向に遷移していくことを示唆している。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION