本調査地でも1年目にはヒメゲンゴロウやコシマゲンゴロウが、2年目にはクロゲンゴロウが確認され、大型化する傾向が認められたが、3年目にはクロゲンゴロウ、シマゲンゴロウが見られなくなり、クロズマメゲンゴロウやチャイロマメゲンゴロウなどの中型種がため池に侵入した。このことは、このため池のゲンゴロウ類群集の生態遷移が進みつつあったが、このため池の環境が大型種の生息には不適であり、3年目からは遷移が後退したと考えられる。ゲンゴロウ以外のコウチュウ類については、ガムシが調査期間を通して確認されたものの、1年目に多数確認されたヒメガムシが、2年目の9月以降見られなくなり、その後、ヒメコガシラミズムシ、キイロヒラタガムシなどの小型種がため池で確認された。小型種が遅れて侵入したのは、これらの種が大型種よりも移動・分散能力が劣るためかもしれない。また、遷移系列の初期段階の池のほうがコウチュウ類の種数が豊富である(Nilsson,1984)とする報告があるが、本調査地においてもため池造成1年目に確認されたコウチュウ類の種数が最も多く、年を追って、現存種数の減少する傾向が認められた(図14)。これらのことから、コウチュウ類の種の入れ換わりが顕著に認められたのは生態遷移によるものだけでなく、このため池の生息地環境にも大きく影響を受けてたと考えられる。
9. 各月の水生昆虫群集の比較
各月の水生昆虫群集間の類似性をCπ指数を用いて解析し、その数値を用いて群平均法によりデンドログラムを作成した結果、1年目については6〜11月の群集構造が類似していることが明らかになった。これは常にマツモムシが優占していたためである。
2年目には、1〜4月と12月、5〜7月、9〜11月、3年目には1〜3月、4〜7月、8〜10月の複数のクラスターが認められた。2年目の1〜4月と12月にはフタバカゲロウの一種が、5〜7月にはマツモムシ、ヒメアメンボ、ホソミオツネントンボが、9〜11月にはコミズムシ、マツモムシ、コオイムシがそれぞれ優占していた。