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第1章 体耕田を利用して造成したため池における水生昆虫群集の遷移

 

最近では、水生昆虫とその生息場所の保護・保全のために休耕田などを利用したトンボ池造りといった水生昆虫のための「ビオトープ」の復元、創造などによる止水環境の保全活動が各地で盛んになりつつある(兵庫県,1991:新井,1995:井上,1995;杉村,1995;内田,1995:吉田,1995;市川,1996;大阪府立城山高校,1996;大阪府,1996;松良,1996;森,1997,大滝,1997など)。ビオトープとは本来「野生生物の生活環境または生物空間」という意味であり、生物群集が生息できる最低限の面積を持ち、その周辺空間から明確に区別できるような空間を指すが、日本では人工的に復元した生物の生息環境といった本来よりも狭い意味で用いられる傾向がある(一ノ瀬1997;鈴木,1998など)。

しかし、こうしたビオトープや止水環境においては、植物の調査報告はあるが(Barendregt,1998;下田,1996など)、水生昆虫のモニタリング調査はまったく行われないか、あるいは特定の種やトンボ目(Samways,1996:Steytler,1995;Taguchi,1988;Watanabe, 1998など)、コウチュゥ目(Nilsson,1984,1986,1994,1996)などのグループのみを対象として行われることが多く、水生昆虫群集全体の遷移についての研究はほとんどなされてこなかった。そこで本章では、中山間地域の休耕田を利用して浅いため池を造成し、そこに成立する水生昆虫群集の遷移を継続的に調査することにより、その特性を明らかにし、水生昆虫の「レフュージア(避難場所)」としての評価を行った。

 

調査地と方法

 

1. 調査地

調査地は、大阪府豊能郡豊能町の標高約280mの山間部にある10段からなる棚田の最上部の休耕田に設定した(図1)。

 

 

 

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