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しかし、伝統的農法から近代農法への転換による農薬の大量使用または、大規模な圃場基盤整備事業などは、稲作水系に生息してきた上水生昆虫をも絶滅に導きつつある(Samways,1996;河野,1998)。このように多くの水生昆虫が危機的状態におかれているなかで、ベッコウトンボなどでは1993年に施行された「絶滅のおそれのある野性動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」の「国内希少種」として採集規制したり(松本,1997)、静岡県の桶ヶ谷沼のように主要部分を県で買い上げ、自然環境保全地域に指定するといったことも行われてきた(今村,1995;福井,1997)。また最近では、原生的な自然の保護だけでなく、2次的自然を保全することの意義と重要性が主張されるようになってきており(石井ら,1993;守山,1997)、農家の後継者不足や(日鷹,1998)や農業の機械化にともなって、放棄されつつある山間の休耕田やそれをとりまく里山的自然の重要性が注目されるようになってきた。このような環境を利用して減少を続ける動植物を保全していこうとする試みが近年さかんになりつつある(鈴木,1996など)。

水生昆虫の保護を検討するにあたっては、野生生物保全の一般論として指摘されているように、1]それぞれの種の生活史、2]種と種のかかわり、3]生息地の環境、4]生物と空間分布と時間的推移などの情報が不可欠である(前田,1996)が、一部の種を除き、これらに関する調査や研究は遅れている。

そこで、本研究では、上水生昆虫の保護方法を検討するのに必要な情報を得るために、休耕田を利用して造成したため池や湿田の状態を保った休耕田に成立する水生昆虫群集のモニタリング調査を行なった。

 

 

 

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