緑の革命が農村社会にあたえた影響の大きさが窺えよう。同様のことは、貧困線以下の人口比率でも確認されうる(第1-4表)。この比率は、パンジャーブ州では既に一桁にまで低下しているが、ビハール州はオリッサ州についで高い数値を示している。さらにいえば、北西部諸州の農業労働者についての貧困線以下の人口比率は、ビハール州の土地所有者のそれよりも下回っている(第1-5表)。
ここで、インドが穀物自給を達したことの意味が明瞭となる。すなわち緑の革命による穀物自給の達成は、あくまでも穀物を輸入しないという意味にすぎず、食料不足に苦しむ膨大な貧困層が依然として存在している。土地を中心とする資産配分の高い不平等度に対して有効な対策を講じることなく残存させたことが、これから指摘するようにインド経済の撹乱誘因となっていくことになる。
2-2 インドの灌漑
地域格差をもたらした最大の要因は緑の革命の進展度の差であり、その背後には灌漑率の差が係わっている。しかし、単に灌漑率で緑の革命の進展度を説明するには問題が残る。第2-6表と第2-7表から見て取れるように、1970/71年度から1990/91年度までの20年間で、小麦作の灌漑率は25%ポイント向上したのに対して、米作では7%ポイントしか向上していない。作付面積も小麦で増加率が高く、生産高の上昇も小麦で高くなっている。まさに、緑の革命は小麦革命であったといえる。
では、米と小麦でこのような格差が生じたのは何故であろうか。その最大の要因は、小麦よりも米の高収量品種がより十全な水管理が必要となるためである。
そのために良好な水管理が可能な圃場にのみ、米についての緑の革命が可能であった。このことは第2-7図から理解できるように、小麦の場合、灌漑率が100%近くではヘクタール当たり3トンの土地生産性が達成されるが、灌漑率が20-40%でも生産性はヘクタール当たり1.5-2トンになる。ところが米の場合には、灌漑率が100%近くあるパンジャーブ州やハリヤナ州では生産性はヘクタール当たり3.5トン以上になるが、灌漑率が50%では1-1.5トンと大きく土地生産性が落ち込んでいる。すなわち灌漑の効果は米で大きくなっているが、これは米が水使用的作物であることを物語っている。その結果、緑の革命は先ず小麦の高収量品種導入から始まり、水管理の必要な米ではやや遅れることになる。