それゆえ、地球表面での熱エネルギー配分を特徴づけているボーエン比(Bowen ratio)を求めると次のようになり、地球のマクロな気候条件は湿潤で、植物生産
P/lE=13/66≒0.19 (2)
したがって生物の生存に適していることが分かる。
地球表面からの水の蒸発(=1139mm/年)に使用された66kcalは、水蒸気が大気中で凝結し降水となるときすべて放出される。さきの節で説明した大気中の水蒸気量(12兆4000億トン)は、地球上での水の蒸発と大気中での凝結・降水によって維持されており、動的平衡状態にある。この凝結熱(lr=66kcal)は、地球大気の吸収した日射エネルギー(61kcal)、地表面から大気中への伝熱(13kcal)および地表から大気中への赤外放射(39kcal)と一緒になって、逸出赤外放射(Is=179kcal)として宇宙空間へ放出されている。
上では地球全体として説明したが、地球は半径6,380kmの球で、入射する太陽エネルギー量・大陸の分布・海洋の分布などは緯度帯によって大幅に違っている。しかし、多くの観測から分かるように、地球上の気候は意外と緩和されている。それは大気圏内および海洋内に地球規模の流れ―大気大循環と海洋大循環が形成され、多量の熱を南北に輸送しているためである。その様子が図2に示されている。
図2-aは地球の吸収する太陽エネルギーと地球の放出する赤外放射の緯度帯変化を示している。北緯35°〜南緯35°の緯度帯域では、吸収太陽エネルギー量が放出赤外放射量を上回っている。一方、北緯35°以北と南緯35°以南では逆に放出赤外放射量が上回っている。それゆえ、大気大循環と海洋大循環による低緯度から高緯度への熱エネルギーの輸送がなければ、低緯度帯は時間につれて高温化し、高緯度帯は寒冷化するはずである。
しかし、観測結果は低緯度帯が25〜30℃、中緯度帯が15〜0℃、高緯度帯が、0〜-15℃にあることを示している。これは低緯度域の余剰熱エネルギーが大気・海洋内の大循環によって高緯度帯へ輸送され、図2-aに示したエネルギー不足を補っているためである。図2-b,cは大気圏内での顕熱と潜熱の輸送を、2-dは海洋内での熱エネルギーの輸送を表わしている。図にみられるように、莫大な熱が北半球では北へ、南半球では南へ大気の流れと海流によって輸送されている。熱輸送は海流よりも大気圏内での流れの方がより効果的である。これは大気圏内の熱輸送が空気のもつ熱エネルギー(顕熱)と水蒸気のもつ潜熱エネルギーの両者によって行われるためである。