その程度と今後の予測に関しては現状では必ずしも確度の高いものではないといえなくもないが、変化の方向は明らかである。降雨量の減少、河川流量の減少、地下水の減少、地下水の塩水化などの影響経路がそれであり、他方では気温上昇による水需要の増加が影響することから生ずる水資源の余裕度の低下である。
こうした水資源の量的変化は現実の人口増による影響に比べれば小さいともいえなくもない。しかし、今後も継続する人口増(半世紀で50億)という条件をつきつけられて、国連の持続可能開発委員会は「21世紀の最大の問題の1つが水資源問題、つまり地球現程での水不足」を提唱するに至ったのである。1992年の国際会議(ICWE)では「水と持続可能な開発に関するダブリン宣言」を発することになったし、94年には国連総会で3月22日を「国連水の日」と定め、迫り来る水資源の危機への民衆的対応を啓発するなどに取組みはじめたのである。
世界人口の地域的変化、地球環境の変化の地域的差異などによって水危機に対する感応度は異なるが、工業化の先行する先進国も人口増加の顕著な途上国も危機意識は共通している。
2 工業化と水資源
定着した農業生産による食糧の安定供給に恵まれた時代はおよそ1万年にわたったとされているが、人類はこの間に、約500万人から5億人に増加した。しかし人口の増加が驚異的な増加に移行したものは17世紀にはじまる工業化であり、僅々数百年で10倍化というものとなった。この速度はさらに加速して20世紀末の60億人から国運人口予測にみられるように21世紀中頃には100億人に達しようとしている。
こうした人類の発展、人口の増加には農業の発展による扶養力の増大に支えられたものであることはいうまでもない。しかし、工業化は後章でふれるように農業程ではないが水資源に徐々に影響を与えつつあり、維持可能な成長のための工業のあり方が問われるようになってきている。以下で、工業化の水資源に与える影響について、みることにしょう。