第1章 人口と水資源
―都市化・工業化―
社団法人日本家庭問題研究協会
副会長 降矢憲一
1 水資源の状況変化
世界の人口にとっての水資源は降水量から蒸発、吸収を差引いた河川流量としては43兆m3、人口1人当たりで7,000m3と国連で計測されている。最近の地球環境の変化によるものを別にすれば、かなり長期にわたって安定的に維持されてきた。
しかし、水を資源という視点からみれば、人口が容易にしうる流量は9兆m3で、これにダムなどの貯留3.5兆m3を加えた12.5兆m3が存在するわけだが、現実に使用されているのはその約50%とされている。さらに人口にとっての資源という意味で1人当たりの使用可能量としてみれば、近年の人口増を反映して1970年と95年の4分の1世紀の間に40%の減少となっている。もちろんこの40%減は現実の使用量減ではなく、利用効率、有効化などでカバーされていて、この数値が、そのまま水不足の程度につながるものでないことはいうまでもない。水の使用率がマクロ的には50%という大きな余裕限界をもっていることも指摘しておきたい。
水が資源であることに関してもつ、もう1つの決定的な条件は、その存在が地域的に偏在していることである。世界の陸地面積の40%を占める乾燥地には水資源量は僅か2%しか存在しないことである。この地域的偏在性は多様的であって、水資源を有効活用できたか否かは古来、人類の発展・文明の程度に地域特性が大きく影響したことはいうまでもない。
こうした水資源の地域偏在性と人口分布とから、アジアは水の流量で世界最大ながら1人当たりで最小であるという現実が存在するのである。アジアはモンスーン地帯として降水量に恵まれているが、降水量は人口1人当たりでは世界平均の26,871m3に対し、中国5,907m3、日本5,160m3、ィンド5,061m3とそれぞれ大きく下回っている。他方、タイ13,985m3、フィリピン12,738m3と降水量で恵まれているが水資源の有効利用で前3国を上回っているか否かはまた別の問題である。
長期間にわたって比較的安定的に推移してきた水資源に、近年深刻な影響を与える問題が発生してきている。それは地球環境の変化である。
人口増を伴う工業化、都市化によって、エネルギー消費増加が生じ、CO2増加を主因とする温室効果で気温が上昇する。