世界の工業化に遅れていた東アジア太平洋地域も植民地化の軛を離れた20世紀後半に入って急速な経済発展を工業化を軸として開始した。60年代の輸入代替産業政策から70年以降の輸出振興政策への転換という若干のタイムロスはあったが、国民経済に占める製造業のシェアが農業のそれを上回る、いわば農・非農転換は、韓国で70年代、80年代に入るとタイ・フィリピン・マレーシア・インドネシアの諸国で揃い、スタートの遅れた中国も例外でなくなった。
こうした工業化の水資源への影響も端的である。世界の水使用量(1995年)で工業用水のシェアをみると、欧州などの先行で23%と農業それの3分の1になっているが、アジア全体では9%とまだかなり低いシェアに止まっている。しかし、工業化の発展段階に応じて日本は33%、韓国16%などと地域的な差異がみられる。現在進行し、将来も着実に継続されていくことが見込まれる工業化の水資源への影響を検討するために、以下で、工業化の変化と水資源のシェアの変化、工業用水のシェアとの時系列的な関連をみることにしょう。
サービス経済化の反映で、製造業のシェアが、既に頭打ち状態になっている日本では、最近の30年間に工業用水のシェアは18.7%から17.0%へと僅かながらも低下している。日本についで工業化が速かった韓国では、最近の20年間の製造業シェアの上昇20ポイントに対し工業用水のシェアは4.3%から9.4%へと倍増している。また、インドネシアは急速な工業化(30年で2倍化)によって産業用水のシェアは経済計画の目標ながら、倍増している。このように国によって工業用水の生産増に対する弾力性に差があるのは工業の発展段階を反映したものであって、工業用水の需要内容の差をみておかなければならない。
工業用水の定義は日本の水資源白書によれば、ボイラー用水、原料用水、製品処理用水、洗浄用水、温調用水など多岐にわたっていて、産業別には化学工業、鉄鋼業、紙パ産業が、用水多消費3業種となっている。日本ではこれら3業種を含む基礎資材型業種で水使用量合計の84%を占めている。
こうした産業の水資源依存のパターンは各国でも共通しており、工業化の段階による差が上述したような水資源に占める工業用水のシェアの動向に反映している。また、日本の近年における工業用水の横ばい的傾向には、回収率が水多消費業種で80〜90%と高いこと、海水利用率が20〜25%と高いことなど工業用水の省資源的対応がかなり進んでいることも見逃がせない。近年の工業化のテンポが速く、量的にはアジアにおけるシェアとして日本を上回る中国の水資源への対応には日本の省資源的経験の応用が期待されるのである。