深まる不透明と不安
人口爆発に対応する世界的な努力の進展に対し皮肉な展開を示してきたのは、人間活動・行動の高度化、広範化による地球規模曲な環境悪化、異常気象による洪水、かんばつ、地球温暖化の脅威等である。このような地球規模的大変動の影響をさらに一層深刻化させたのは、冷戦後における世界政治の混乱である。
このような複合的危機を代表するものは、食糧問題である。近代化、工業化、都市化の急激な進展は、食糧生産に必要な土地、フロンティアの急激な縮少、水の不足、土地の劣化をひきおこしている。戦後に達成した農業生産性向上の余地も消滅し、なお増加を続ける人口に対する食糧供給力の可能性が緊急課題として登場してきた。
世界には飢餓に苦しむ人口が10億人以上に達するといわれる。世界人口は1987年に50億に達し、1999年には60億に達しようとしている。わずか12年間に10億人の増加である。食糧生産性の増大がなければ、さらに10億人の飢餓人口を著しく増加することが予測されよう。
しかし、この食糧生産の増加の余地については悲観論と楽観論がある。悲観論の代表は国際的にも有名になったレスター・ブラウン4)である。詳細な実証分析によって、食糧不足は不可避であることを立証している。たとえば、穀類の需給について1950年と1990年を比較し、2030年を予測しているが中国では263百万トンの生産に対し、消費は479百万トンとなり、差引216百万トンの不足が生ずる。同じくインドでは2030年に45百万トンの不足となると予測している。この中国の不足分の穀類は今日の世界の穀類総輸出量よりも多いという。5)ブラウンも食糧危機を警告するだけでなく、破局を回避するためのいくたの提案を行っていることはいうまでもない。その対策の1つとして人口の安定化を早急に実現することを提案していることは、当然であるが注目すべきである。
しかし、他方において楽観論的見解も少なくはない。その1人はA.H.トフラーである。6)ブラウン同様、日本でもよく知られた専門家である。現状は決して過去より悪くはないこと、バイオテクノロジーの生端技術による開発などによる食糧生産の増加の可能性、インドが1960年代に穀物生産量が年間9300万トンに達し、頭打ちとみなされながらも、今日1億9100万トンの穀物を生産し、1960年代の人口5億より何億も多い人口を扶養しているといった事実を示し、未来に対する明るい展望を描いている。強い期待と希望をもった楽観論的視点である。